| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) E02-07  (Oral presentation)

イネシンガレセンチュウの個体群動態

*星野滋(広島総研農技セ), 富樫一巳(東京大学農学部)

イネシンガレセンチュウ(Aphelenchoides besseyi )(以下,線虫)はイネの外部寄生者であり,線虫は種子間で集中分布を示す。この線虫は「ほたるいもち」を引き起こす。新規購入イネ種子を育苗・移植した場合,線虫は殆ど発生しないが,その収穫物で栽培を繰り返すと2~3年後に大発生が起こりやすい。そこで,線虫の個体群動態を解明するため,2003年に線虫に感染した種子を使って,育苗・移植・収穫を行い,翌年から収穫された種子の一部を使って2016年まで毎年同一水田で栽培を繰り返した。3段抽出法により種子を抽出し,星野・富樫法(1999)で線虫数を調査した。
その結果,2003~2012年には2004年,2008年,2012年にピークを持つ減衰振動を示していたが,2012年以降,1年毎に減衰振動を示した。種子内線虫数と死亡率の逆密度依存的関係はピーク年以外で見られ,分布集中度の増加とそれに伴う種子内線虫数の減少によると示唆された。初期の生存線虫の種子内密度とほたるいもち平均発生茎率の間に正の相関があり,初期密度が高いほど高い割合で茎に分布する傾向にあった。連続する2カ年の線虫密度の関係をみると,線虫密度1.04頭/種子以上では,t年の種子当たりの生存線虫密度とt+1年の種子当たりの生存線虫密度の回帰直線の傾きが0.586となった。そのため,線虫密度が高くなったピーク時から徐々に減少していったと考えられた。また,密度0.86頭/種子以下では回帰直線の傾きが1.067となった。このため,0.86頭/種子以下の線虫密度で線虫は増加に転じると考えられた。線虫の存在する種子内の線虫数の年次変動は多少の増減はあるもののほぼ一定で推移した。種子内の線虫数と線虫のいる種子割合は高い相関を示した。以上のことから,線虫密度の変動は線虫の存在する種子割合の変動によるものと考えられた。


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