| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) G02-02  (Oral presentation)

生息地の餌サイズに依存するヒメオサムシの形質解放

*奥崎穣(北海道大学), 曽田貞滋(京都大学)

形質解放は近縁種のいない環境での形質進化である.島などの新規環境に移入した動物でいくつかの研究例はあるが,その進化に一貫したパターンは見られず,形質解放の体系的な理解は進んでいない.オオオサムシ亜属の小型種ヒメオサムシは西日本に広く分布し,分布域の大部分で大型の近縁種オオオサムシと共存する.この2種の体サイズは生息地の気温と正の相関を示し,繁殖干渉により一定の体サイズ差を維持する.一方,九州の離島や半島ではヒメオサムシは単独で分布するが,一部の地理的集団は気温から予想されるよりも大型化する.オオオサムシ亜属の幼虫はフトミミズ科のミミズのみを餌とし,幼虫の体サイズが捕食可能なミミズのサイズを決定するため,ヒメオサムシの単独分布域での体サイズ変異は,ミミズの体サイズの地理的変異が原因である可能性がある.そこで,ヒメオサムシの体長が明らかになっている九州40地点からフトミミズ科1173個体を採集し,体重を測定後,ミトコンドリアDNAのCO1領域625bpにおいて系統解析を行った.日本列島のミミズ相の大部分を占めるフトミミズ科の種多様性は高く,その多くは外見による種同定が困難である.そのため,フトミミズ群集の体サイズ構成が,限られた系統内の体サイズ変異で決定されるのか,あるいは体サイズの異なる系統の構成によって決定されるのかを明らかにするには,DNAバーコーデイングが有効である.フトミミズ科は17系統に区別され,そのうち12系統は小型(体重5g未満),5系統は大型(5g以上)であった.全ての調査地でフトミミズ群集は2つ以上(平均4.6)の系統から構成されており,その構成は地域によって異なっていた.そして,ヒメオサムシはフトミミズ科の大型系統の割合が高い単独分布域で大型化していた.本研究により,形質解放が生態的によく似た種の不在のみによっては起こらず,単独分布域の環境に依存した適応進化であることが実証された.


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