| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) I01-08  (Oral presentation)

水源域の人工林の面積・蓄積と河川流量の関係

*洲崎燈子(豊田市矢作川研究所)

長野、岐阜、愛知の3県を流下する一級河川矢作川は、農業、工業、上水道による水利用率が4割に達しており、高度な水利用と河川生態系の保全を両立させることが流域の課題であり続けてきた。河川流量については矢作川中流で過去60年の間に約25%減少しており、この流量減少がアユをはじめとする在来の河川生物の生息環境の悪化や、外来生物の繁殖につながっている可能性が指摘されている。
矢作川流域の7割は森林に覆われており、そのおよそ半分を人工林が占めている。この人工林は戦後の拡大造林により面積が増加したが、1980年代以降林業の低迷により、大部分が間伐されず放置されている。水消費量の多い針葉樹人工林の蓄積量増大による森林からの水流出量の減少は、宮崎県の綾南川等で指摘されており、矢作川でも人工林の拡大と蓄積増加が、河川流量の減少につながっている可能性がある。そこで矢作川最上流の矢作ダムへの水流入量と、矢作ダム集水域における森林と人工林の面積・蓄積量の推移を調べ、その関係について推測した。
矢作ダムへの流入量は1971~2009年前までに約15%減少した。矢作ダム集水域の森林面積は1967~2007年にかけてほとんど変化していなかったが、森林蓄積量は約4倍に増加した。針葉樹人工林の蓄積量は約5倍に増加しており、森林蓄積量に占める割合が65%から81%に増大していた。また、針葉樹人工林は面積拡大に伴い、蓄積量が指数関数的に増大していた。矢作ダム集水域に近いアメダス観測所の飯田ではこの期間、降水量の変化は見られなかったが、気温は約1℃上昇しており、蒸発散量の増加に寄与している可能性があった。これらのことから、矢作ダムへの流入量減少には、針葉樹人工林の著しい蓄積量増大が関与している可能性があり、流域の水資源保全のために水源域の人工林の間伐が有効であることが示唆された。


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