| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) I01-12  (Oral presentation)

過去200年の大阪周辺の景観変化から考える都市と里山

*佐久間大輔(大阪市立自然史博物館)

 最高標高がわずかに1000mを超えるばかりと深い山を持たない大阪府域の自然は全体に人の利用が及ぶ、農的な自然である。このため、特に農業の変化や都市と農村の関係の変化を受け、大きくその様相を変えてきた。常緑カシの減少とマツ属の増加と行った状況は花粉分析などによっても検証の進むところであるが、今回はいくつかの歴史資料を用いて、都市の需要と関連付けた検討を行う。需要を示す資料としては大阪港の統計、物産統計、農林統計などを用い、同時に山側の状況を示す資料としては大阪各地の共有地の状況を示す「全国山林原野入会慣行調査資料」、民俗資料などを用いて検討した。
 過去200年の大阪府域の大きな景観的変化としては干拓による干潟や湿地(主としてヨシ原)の減少、宅地化・都市化の進展、山林の草山化と畑地化が挙げられるが、今回はそのうち特に山林の変化に着目した。大阪の状況を以下に概説する
■江戸期
・大阪の薪炭需要は広く西日本から賄われているが、特に北摂など山地については森林資源が完全に枯渇していたわけではなく、府内の移動も。
・一方で大阪の共有地は草の利用が重点にある。緑肥や飼料利用など需要が強く、流通も。
・「草」としての利用の範囲には楢柴を含む地域もある。細かな地域ニーズに応じてルールが異なる。
・松材の価値は高く、また、松茸の利用も他の山菜とは異なる扱いがされる。
■明治期〜昭和前期
・土地の所有形態は変わっても入会慣行は多くの地域で維持される。薪炭開発、草山利用は強化
・「山畑」の開墾はむしろ進展
■昭和後期以降
・食糧難の時期が終わると、山中の畑はクヌギ、モウソウチク、ウメ、カキなどに転換。
・特別なものを除き薪炭利用停止、草の需要も止まる
・高木のアカマツ林化とナラ林の拡大、松の枯損による広葉樹林化
現在の大阪周辺のいわゆる里山林の前歴は地域により場所により大きく異なっている事はより強く意識されるべきである。


日本生態学会