| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) I02-03  (Oral presentation)

絶滅したエゾオオカミ(Canis lupus hattai)の食性復元

*松林順(総合地球環境学研究所)

エゾオオカミ(Canis lupus hattai)は、かつて陸域生態系の頂点捕食者として北海道に生息していたが、乱獲や餌不足により20世紀初頭までに絶滅した。エゾオオカミの絶滅は北海道の開拓が始まった直後に起きており、標本もほとんど現存していないため、これまでその生態に関する学術的知見はほとんど得られていない。
本研究では、エゾオオカミがかつての生態系で果たしていた役割を調べるため、過去の遺跡等から出土したエゾオオカミ7個体分の骨試料の炭素・窒素安定同位体比分析を行い、その食性を復元した。エゾオオカミの潜在的な餌資源である、エゾシカやアシカなどの海獣、サケの同位体比も併せて測定し、同位体混合モデルを用いて各餌資源の寄与率を個体ごとに推定した。
分析の結果、7個対中5個体のエゾオオカミは、ほぼ100%の割合でエゾシカなどの陸上哺乳類に依存していたと考えられた。一方、残りの2個体では、海産物の寄与率がそれぞれ栄養源の33.1%、78.6%となっており、海由来の資源を利用していたことが示唆された。また、海産物の中ではサケの寄与率がより高く、それぞれ31.1%、44.7%と推定された。
本研究の結果から、エゾオオカミは他地域のオオカミと同様に大部分は陸上哺乳類を捕食していたが、一部の個体群ではサケなどの海産物を利用していたことが示唆された。カナダ沿岸の一部地域では、サケなどの海産物を多く利用する「海辺のオオカミ」が知られている。海辺のオオカミの個体群は、泳ぎが得意であり、サケや海獣類、貝類を食べるなど、通常のオオカミとは異なる独特の生態を持っている。エゾオオカミが自然状態で海産物を利用していた場合、北海道でも海辺のオオカミのように特殊な生態を持った個体群が存在していた可能性がある。


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