| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) J02-09  (Oral presentation)

富士山における樹木年代学的手法を用いたシカ被害の経年変化

*元吉遼太郎(東邦大学大学院), 竹内亨(電力中央研究所), 下野綾子(東邦大学)

近年、シカの樹皮剥皮による森林の荒廃が深刻な問題となっている。富士山でもシカの生息域が高標高へと拡大しており、植生の衰退が懸念されている。深刻化する前に被害を予測するには、被害の経年的な知見が重要となる。経年的な調査が行われていない地域では、樹木年輪年代学的手法が唯一、その知見を補える手法である。樹木年輪年代学的手法は剥皮後に形成された年輪数を計測することで過去の剥皮発生年を推定することが可能となる。本研究では、富士山において樹木年輪年代学的手法により剥皮の経年変化を明らかにし、剥皮発生年に影響を与える要因について検討した。
富士山亜高山帯(標高1900 m‐約2500 m)の西斜面において剥皮の確認された地点に調査区を60カ所設置した。調査は嗜好性樹木であるシラビソを対象に行った。調査区内の最も古い剥皮を2本まで採取し、年輪数から剥皮発生年を算出した。まず剥皮の経年変化を明らかにするため剥皮発生年と各年に剥皮された本数で回帰分析を行った。次に、剥皮発生年に影響を及ぼす要因をGLMで評価した。環境データとして森林構造(主要樹木の本数、平均胸高直径、合計胸高断面積)、地理的要因(雪崩跡までの距離、標高)を毎木調査とGISから整備した。
剥皮は経年的に有意に増加していた。要因解析の結果、ダケカンバの本数が正の影響、標高が負の影響を与えており、高標高へと剥皮が拡大している傾向がみられた。ダケカンバはシカの不嗜好性樹種であり、間接的に影響を与えていると考えられた。ダケカンバは明るく開けたところに定着する先駆樹種であり、本研究でも自然裸地の形成される沢付近で多くみられた。シカはこのような沢付近を早くから利用しはじめたと考えられた。以上の結果から、今後も剥皮被害は増加するとともに、高標高域に向けて被害が拡大すると予測された。


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