| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) M01-07  (Oral presentation)

花は、被食に応答して化学的な誘導防御をするのか?:花の被食率と花成分の関係

*若林加枝(東北大・院・生命科学), 板垣智之(東北大・院・生命科学), 小黒芳生(森林総研), 酒井聡樹(東北大・院・生命科学)

花は植物にとって繁殖を司る重要な器官であり、植食者による被食から防御する価値があるといわれている。被食に対する植物の防御は葉で研究されることが多いが、花は葉に比べて存在量が少なく存在期間も短いなど、葉と異なる特徴をもつため、最適な防御戦略も葉と異なると考えられる。しかし、花への被食に対して花がどのような防御をするのかについての研究例は少なく、特に、花の誘導防御についてはごく一部の植物種でしか研究されていない。本研究では、多数の種を対象に花の防御戦略を解析する。特に、以下の二つの解明を試みる。
1) 野外における花の被食率と花の化学形質の濃度との関係は?
2) 花の誘導防御は多くの種でみられるのか?

2015年および2016年の夏から秋にかけて、宮城県および青森県で草本12種を対象に野外調査をおこない自然状態での被食を観察した。2015年に調査した10種には、人工的な食害処理および食害排除処理を施した。そして、その後に開花した花の化学形質(窒素・リン・総フェノール・縮合タンニン)の濃度を比較した。

自然状態においては、窒素濃度が高い花ほど被食率が低い傾向が見られた。リン・総フェノール・縮合タンニンに関しては、花の化学形質の濃度と被食率との間に有意な関係は見られなかった。また、人工食害処理と食害排除処理の個体間で処理後に開花した花の化学形質の濃度を比較した結果、リンと総フェノールに関しては種によって処理の効果が異なることが明らかになった。しかし、種ごとに処理間比較をした結果、人工食害処理で化学形質の濃度が有意に増加した種は見られなかった。これらの結果から、1) 花は窒素を含む防御物質で事前防御をすること、および2) 花にとって誘導防御はあまり一般的な戦略ではないことが示唆された。多くの植物にとって花は葉に比べて存在期間が短いため、植食者から花を事前防御するほうがよいと考えられる。


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