| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-B-035  (Poster presentation)

植物の機能的多様性は土壌微生物の機能的多様性を高めるのか?

*執行宣彦(東大・秩父演), 平尾聡秀(東大・秩父演), 梅木清(千葉大院・園芸)

森林生態系は地上部と地下部の相互作用によって駆動することが知られる。特に、森林の生態系機能はそこに生息する生物の機能特性の相互作用によって決まると考えられる。一方で、環境の変化も環境フィルタリングなどの効果により機能特性の分布に影響を及ぼす。そのため、森林では、群集形成プロセスを介し、樹木と土壌微生物間の機能的多様性の関係に影響を及ぼすことが考えられる。本研究では、樹木の機能的多様性は自由生活型の土壌細菌の機能的多様性を高めているという仮説を立てて、樹木と土壌細菌との間の機能的多様性の関係性を明らかにする。

東京大学秩父演習林の天然林において、標高傾度(900-1800 m)に沿った60ヶ所の調査地で、土壌採取と植生調査を行った。土壌は深度ごと(0-5 cm・5-10 cm・10-20 cm・20-30 cm)に採取し、土壌細菌の16S rRNA遺伝子V4領域を対象としたアンプリコンシーケンス解析と群集の系統樹に基づいた予測メタゲノム解析を行った。また、調査地に出現する樹木種については、各種3-5個体の葉を採取し、機能特性として比葉面積(SLA)・総フェノール・CN比を測定した。これらのデータから、各分類群の機能特性の平均値と機能的多様性を推定した。

樹木−土壌細菌間の機能的多様性全体の相関は認められなかったが、各機能特性どうしの関係性は、深度ごとに異なる傾向を示した。深度0-5 cmでは、葉の総フェノール量の多様性は炭素循環(解糖系・クエン酸回路・炭素固定・メタン代謝)に関係する機能遺伝子の多様性と正の相関を示した。一方で、窒素代謝に関わる機能遺伝子量は、深度20-30 cmのみで葉のCN比の多様性と正の相関を示した。これらの結果は、群集内の樹木のリターの特性や窒素利用効率の多様性を反映したものと推測される。本発表では、さらに、環境フィルタリングや競争排除といった群集形成プロセスを考慮し、樹木−土壌細菌間の機能特性のつながりを議論する。


日本生態学会