| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-B-056  (Poster presentation)

フィリピン沿岸域の干潟とマングローブ林内の食物網構造

*小川裕也(京都大学), 神崎護(京都大学), 岸野友子(筑波大学), Añasco, Nathaniel(フィリピン大学ヴィサヤ校), 石川智士(総合地球環境学研究所)

小川裕也(京大・農),神崎護(京大・農),岸野友子(筑波大・下セ),岡本侑樹(京大・地球環境学堂),Resurreccion B. Sadaba(フィリピン大学ヴィサヤ校)
 
東南アジア沿岸域は生産性や生物多様性が高く,生物的・経済的に重要なエリアとして注目されている.陸と海をつなぐエコトーンとして複雑な生態系ゆえに環境変化に対する影響を受けやすく,回復も遅い.そのため,近年の経済発展に伴う人為改変と気候変動による自然災害の増加が,沿岸域生態系に大きく影響を与えている.
本研究は1988年以降に90%以上のマングローブ林が養殖池に転換したフィリピンのパナイ島バタン湾沿岸域(約50㎞2)にて行った.調査地では現地人が漁業を主な生業とし,養殖池,放棄養殖池,天然マングローブ林,植林マングローブ林が散在している.本研究では湾内に生息する動植物と底質を採集し,炭素・窒素安定同位体比(δ13C・δ15N)からみられる空間変動と食物鋼構造を解明することを目的とした.
分析の結果,湾内の底質中有機物のδ13Cは河川域から湾口にかけて約-29‰から約-25‰の推移が確認でき,マングローブ林内から干潟にかけても約-27‰から-25‰の推移が確認できた.このことから,陸生有機物が主な有機物供給源として影響を及ぼしている範囲が把握でき,ミクロなスケールでも空間変動が確認できた.また,移動性が低いため環境評価に用いられる底生生物において,マングローブ林内,干潟,植林地,放棄養殖池の4つの土地利用下で種構成やδ13C・δ15Nの分布に差がみられた.多様度指数(D)と優占率上位の相対優占度(P1)から,天然マングローブ林内(D=0.92,P1=0.2)は均一的な種数で多様性が高く,放棄養殖池(D=0.65, P1=0.57)は特定の種が優占していることが分かった.これらのことより,植林や養殖池転換などの人為改変が,天然とは異なる種構成や餌資源,食物鋼構造を生み出し,特定種においては重要なハビタットとしての貢献が示唆できた.


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