| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-B-080  (Poster presentation)

嚢舌類における盗葉緑体現象の適応的意義

*城山裕美, 遊佐陽一(奈良女子大学大学院)

 嚢舌類ウミウシ(軟体動物:腹足類)の中には、餌である藻類から葉緑体を細胞内に取り込み、一定期間保持し、光合成に利用(盗葉緑体現象)できる種が存在する。現在までに、光があることでウミウシの生存率や成長率が向上することが知られているが、光合成がウミウシの適応度に与える影響を直接的に示した研究は存在しない。そこで、本研究では摂餌や光合成によるウミウシの繁殖に対するメリットを明らかにした。
 人工海水を300mL入れた円形の容器にクロミドリガイ Elysia atroviridisを1ペアずつ入れ、これを光条件(弱光1 µmol m₋2 s₋1 /強光30 µmol m₋2 s₋1)と餌条件(ミル Codium fragileの有無)を組み合わせた4つの条件で飼育・観察した(各10ペア20個体)。その際、光は14L10Dの周期で水温は23±1℃とし、餌藻類が受ける光量差を無くすために週1回、弱光/強光の餌有条件同士の餌を入れ替えた。そして生存率、湿重、卵塊数、卵塊当たり卵数、孵化時の最大殻長を111日間毎日記録した。
 まず、成体の生存率は餌があると高くなり、湿重は光や餌条件が良いと増大した。期間内の総卵塊数は強光・餌有条件で最大となったが、卵塊当たり卵数は餌が与えられていないウミウシの方が多かった。また、幼生の最大殻長については強光・餌有条件で最も大きかった。以上を踏まえ、総卵塊数・卵塊当たり卵数・幼生サイズより算出される繁殖投資量を4条件間で比較すると、強光・餌有条件で最も多かった。以上より、光と餌条件がクロミドリガイの適応度成分にも影響することが、嚢舌類で初めて示された。


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