| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-B-092  (Poster presentation)

宅地の花資源はマルハナバチのニッチ分割に影響を与えるか?

*中村祥子(北海道大学大学院環境科学院), 工藤岳(北海道大学地球環境科学研究院)

市街地の宅地の植栽は、マルハナバチにとって重要な採餌場所となっている。宅地の植栽は自然植生地に比べ花種数が豊富で、花形態も多様である。このような複雑な採餌環境では、ポリネーターの採餌パターンも自然植生地と異なるかもしれない。本研究では、花資源の機能的特性(開花量、蜜量、花形態)とマルハナバチ体表付着花粉の種数と粒数から、マルハナバチの採餌特性(個体と種のニッチ幅、種間ニッチ分割)をハビタット(自然林、自然草地、宅地)間で比較した。個体と種のニッチは、花の機能的特性に基づくニッチ空間(種座標分析)に、マルハナバチ個体の好み(付着花粉の割合)を考慮した「ニッチ中心」を投影して調べた。各ハビタットで捕獲したマルハナバチは、どの種もハビタット内の植物で採餌を完結させていた。マルハナバチ群集の分布は、どのハビタットでも開花量との関連性が高く、多様な花種が近接する宅地でも、各花種の開花量がマルハナバチの採餌選択の重要な要素となっていることが示された。また、どのハビタットでも複数のマルハナバチ個体が集中する花種があり、それらは開花量との関連に加え、花粉源であるか、あるいは蜜量が多い花だった。利用可能な花種数が多い宅地では、個体のニッチ幅(付着花粉の種数)が広く、付着花粉種の組み合わせも多様だった。宅地では、マルハナバチ個体はそれぞれ多様な花種を利用するため特定花種への集中が緩和され、種としてのニッチ幅が広がったと解釈できる。この傾向は特に長舌種のエゾトラマルハナバチで強く、本種が単舌種に比べ多様な花形態を利用できることが原因であろう。コロニー最盛期におけるニッチ中心の個体間距離は、種内より種間で大きかった。これは、宅地でも自然植生地と同様、ニッチ分割が起きていることを示すものである。すなわち、ニッチ幅の増大に伴う種間のニッチ分割の消失は今回の研究では検出されなかった。


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