| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-C-115  (Poster presentation)

林地と草地の境界部における野ネズミのハビタット利用

*清水奎(名古屋大学・農・森林保護), 柏木晴香(名古屋大学・院・生命農・森林保護), 梶村恒(名古屋大学・院・生命農・森林保護)

 日本に広く分布する森林性野ネズミのアカネズミ Apodemus speciosusとヒメネズミA.argenteusは、林地と草地で生息が確認されている。これらの森林性野ネズミは食物連鎖において中間的地位を担い、また種子の運搬・貯蓄を行うなど、様々な動植物と関係して周囲の生態系への影響力が大きいことが知られている。そのため、林縁における森林性野ネズミのハビタット利用様式を知ることは、林地–草地の生態系間の関係性における新たな知見となると考えられる。そこで本研究では、アカネズミとヒメネズミを対象に、林地と草地の境界部で捕獲調査を行い、林縁からの距離による両種の分布の違いと林地–草地間のネズミの移動を把握した。また、各トラップ設置位置の環境要素 (高木数・低木数・堅果生産木数・草本層被度) と季節ごとの林地・草地における餌状況 (節足動物の目別乾燥重量・堅果落下量)を記録し、ネズミの捕獲位置との関係を調査した。
 その結果、林縁におけるハビタット利用様式はアカネズミとヒメネズミで明らかに異なっていることが分かった。すなわち、アカネズミは草地を含む林縁付近を多く利用していた。一方、ヒメネズミは林縁から離れた場所 (林内) で多く捕獲され、草地の利用はほぼ見られなかった。アカネズミは地上生活者であり、下層植生の豊富な環境を好むため、ササの存在する林縁付近や草地を利用したと考えられる。対照的に、ヒメネズミは樹上に登ることのできる半樹上生活者であるため、立木が豊富な林内を選好したと考えられる。また餌状況の調査から、夏の草地には節足動物が豊富に存在し、秋の林地には堅果が存在することが確認され、夏の草地・秋の林地が森林性野ネズミにとって好適な餌環境であると考えられた。しかし実際の森林性野ネズミの移動は、秋に林地から草地への移動が多く観察された。この移動は、種子が草地に搬出される可能性を示唆するものである。


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