| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-D-130  (Poster presentation)

長野県上伊那地方の河川地域における立地環境条件の違いがトンボ類群集の構造に与える影響

*荒裕樹(信州大学大学院総合理工学研究科), 大窪久美子(信州大学 学術研究院農学系)

近年、河川環境は治水や利水事業の影響、また周辺地域の二次的自然の変化が著しく、そこに生息する水生昆虫の減少や絶滅が問題となっている。一方、水生昆虫の中でもトンボ類は生息環境に関する知見が多く、特に環境指標性の高い分類群として知られている。そこで本研究では、比較的自然性の高い二次的自然が残存している長野県上伊那地方の河川地域において、異なる立地環境条件でのトンボ類群集との関係性を把握し、今後の本分類群の保全策を検討することを目的とした。
調査地は上伊那地方の主な5河川を選抜し、調査は2016年の8月から10月まで実施した。また、立地環境の違いとしては、流域の立地条件(市街地か中山間地)やワンドの有無を考慮し、5河川で全10カ所の調査地区を設定した。各地区の河川敷に300mのルートを設定し、ルートセンサス法で踏査し、出現したトンボ類の種名及び個体数、雌雄等を記録、測定した。
以上の結果、全地区の全調査期間を通じて23種のトンボ類が出現した。アキアカネやオツネントンボ等の止水性のトンボ類は17種が出現し、種数全体の約74%を占め、流水性の種より多かった。流水性のトンボ類ではミヤマアカネやハグロトンボが出現した。立地が中山間地の地区では樹林に囲まれた水域に生息する種が、市街地の地区では植物組織内産卵する種が多く確認された。これらは前者の地区は上流域で樹林に囲まれた水域の面積割合が高く、後者の中・下流域の地区では水中に付着藻類や水生植物が多いことが一要因と考えられた。TWINSPAN解析の結果、全地区のトンボ類群集は、市街地1地区を除き、大きく中山間地と市街地で分類された。中山間地の地区に分類された市街地の1地区は他よりも標高が高かった。また、下流部ではミヤマアカネ及びマユタテアカネ、ハグロトンボの個体数が多かった。発表では群集の構造と立地環境条件について、さらに議論する予定である。


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