| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-D-131  (Poster presentation)

DNAバーコーディング法を用いた北アルプスに生息するニホンライチョウの餌資源推定

*藤井太一(中部大学大学院応用生物学研究科), 橋本知英(中部大学応用生物学部環境生物科学科), 加賀春香(中部大学応用生物学部環境生物科学科), 上野薫(中部大学大学院応用生物学研究科), 南基泰(中部大学大学院応用生物学研究科)

 ニホンライチョウ(以降,ライチョウ)は絶滅危惧種IB類に指定されている国の天然記念物である.1985年には生息数が3000羽と推定されていたが,現在では1700羽にまで減少している(中村,2007).このような背景から,ライチョウ保全活動が活発に行われており,ライチョウの人工飼育及び自然復帰の際の適切な自然環境保全のための自然環境下における餌資源の把握が課題となっている.餌資源を最も正確に把握する方法は解剖による胃内容物の観察であるが,天然記念物であるライチョウは殺傷できない.このため,目視による採食行動確認が行われているが,本当に採食しているかは不明である.そこで,糞中の採食物残渣を利用したDNAバーコーディング法によりライチョウの餌資源推定を行った.2015年8月に富山県太郎山周辺に生息するライチョウの糞を33サンプル採集し,採集した糞より全DNA抽出を行った.植物性餌資源の推定のために葉緑体DNAのrbcL遺伝子領域の一部,動物性餌資源の推定のためにミトコンドリアDNAのCOI遺伝子領域の一部を解析した.相同性検索にはDNA Data Bank of Japanを用い,相同性98%以上でpublishedされたデータのみを使用した.rbcL領域のPCR増幅が成功したのは33サンプル中33個で,植物性餌資源推定の結果,24種(種レベルで11種,属レベルで9種,科レベルで4種)が推定された.糞からの検出頻度が高い植物はガンコウラン(63.6%),クロマメノキ(30.0%)及びシラネニンジン(24.2%)であったことから,これら3種が主要な餌資源植物種だと考えられた.COI領域のPCR増幅が成功したのは33サンプル中3個で,動物性餌資源推定の結果,相同性98%以上で一致するものはなかった.また,低い相同性で検出されたデータはCOI由来のデータではなかった.以上の結果より,8月における太郎山に生息するライチョウの主要な植物性餌資源を明らかにした.しかし,動物性餌資源については明らかにできなかった.


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