| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-D-139  (Poster presentation)

ステレオカメラを用いたユキヒョウの形態および行動の3次元計測

*内田大貴, 菊地デイル万次郎, 浅妻弘樹, 北村亘(東京都市大学)

 絶滅危惧種の保全計画立案の際,野外での生体情報の獲得は必須となる。しかし,観察と捕獲が困難な希少種では形態や行動等の生体情報が把握できず,有効な保全策を立てられないケースがある。ユキヒョウ(Panthera uncia)は高山に棲むネコ科の高次捕食者で,気候変動等の影響で絶滅が危惧される。本種は行動圏が広い上に観察と捕獲が困難なため,形態に関する情報は極めて乏しく,行動の計測例はない。
 そこで本研究は東京都多摩動物公園で飼育されるユキヒョウ(5個体)を用いて,①形態と歩行運動を計測する動画解析手法を考案し,②計測値を力学的に評価した。具体的には,カメラを2台並べて同時撮影するステレオカメラにより本種を立体視し,体高等の形態,歩行速度等の行動を3次元的に計測した。計測した体高と歩行速度に基づき体高の異なる種間で歩行速度の比較に用いられるフルード数(歩行速度)^2 /(体高×重力加速度)を計算した。さらに,本研究と野生の映像から歩行周波数(Hz,毎秒の歩数)を計測し,飼育と野生の歩行運動の差異を評価した。
 計測した体高は0.15₋0.58m,歩行速度は0.84₋0.92 m/s,フルード数は0.11₋0.17となった。飼育下と野生での歩行周波数はそれぞれ0.82₋0.92 Hzと0.83₋0.88 Hzで,大きな違いは見られなかった。多くの動物で歩行時のフルード数は0.25付近に集中するという事実から,本種は他の動物よりも歩行速度が遅いと考えられた。また,フルード数が低いと酸素消費速度も低くなることから,ユキヒョウは歩行速度(=移動速度)を犠牲にし,酸素の薄い高山へ適応していることが示唆された。本研究からユキヒョウの形態および行動様式の一部が明らかとなり,3次元計測が生態に関する新知見をもたらすことを示した。この成果の応用による他の野生動物の保全計画立案への寄与が期待される。


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