| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-D-156  (Poster presentation)

ゴマシジミ生息地における植生管理の違いが食草を含む湿生群落に与える影響

*新井隆介(信州大学大学院総合工学系研究科, 岩手県林業技術センター), 大窪久美子(信州大学学術研究院農学系)

環境省レッドデータブック(2014)で準絶滅危惧であるゴマシジミ北海道・東北亜種の生息地保全を目的とした植生管理として、発表者らによって6月に食草のナガボノワレモコウのみを選択的に残す刈取り管理の手法(新井・大窪 2014)が提案された。本研究では植生管理の違いによる本亜種生息地への影響を検証するため、引き続き刈取り実験を実施した。本生息地では毎年11月に全草刈取り(年1回刈区)が行われているが、2013年と2014年に生息地の一部で11月の全草刈りに加えて、同年6月にも食草のみを選択的に残す刈取り処理(年2回刈区)を行い、両区を比較した。なお、2014年夏季に調査区の一部で人為的な攪乱の影響を受けたため、当該データは解析から除外した。その結果、2013年夏季の群落内の相対光量子束密度及び土壌含水率は両区間で有意な差はなかったが、前者においては年2回刈区が高い傾向にあった。次に、2013年夏季の年1回刈区の群落上層ではヨシやススキ等が優占し、食草は被陰されていたが、年2回刈区では競合種の優占度は低かった。2013年夏季の食草及びその競合種であるヨシの積算優占度は両区間で有意な差がなかったが、年2回刈区では前者の値が高い傾向にあった。また、2013年夏季において食草のシュート数は年2回刈区が年1回刈区より多かったが、花穂数については逆の結果であった。2015年6月に寄主アリであるハラクシケアリを調査した結果、両区間で有意な差はなかったが、年1回刈区における個体数が多い傾向にあった。以上のことから、年2回刈区では、競合種の群落上層での優占度が低くなり、群落の光環境が改善されたことにより、食草の優占度やシュート数は年1回区より多くなる傾向がみられ、処理の効果が確認された。しかしながら、年2回刈区における寄主アリの個体数が年1回刈区に比べ少なかったことから、何らかの負の影響が生じた可能性も示唆された。


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