| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-F-183  (Poster presentation)

アユの産卵・遡上時期の経年変動

*村瀬偉紀(東京大学大気海洋研究所), 入江貴博(東京大学大気海洋研究所), 井口恵一朗(長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科)

アユは海と川を行き来する両側回遊型の生活史を有する代表的な魚類であり、水産重要種として古くから重宝されてきた。本種は日本列島においては北海道から鹿児島県までの広緯度範囲に生息し、その形態や生態、生理学的特性が緯度的な勾配を示すことが知られている。緯度勾配の一例として、高緯度に分布する集団は低緯度に分布する集団と比べて産卵開始時期が早く、河川遡上開始時期が遅いことが報告されている。産卵・遡上の開始時期は、アユの生活史においてその後の成長速度や生残率を左右する重要な要因であり、その時期が緯度方向で異なることは、各地のアユの生態を理解するうえで非常に興味深い現象である。しかしながら、アユの産卵・遡上開始時期を広緯度範囲にわたって調べた研究は1950~60年代のそれぞれ一例に限られ、その上、産卵・遡上開始時期の経年的な変動を考慮した研究例はない。そこで、本研究では近年のアユの産卵・遡上開始時期の実態を明らかにすることを目的としてデータ解析を行った。
北海道の見市川から鹿児島県の天降川までの合計92河川を対象とし、複数の文献から直近26年間(1990~2016年)のアユの産卵・遡上開始時期のデータを参照し、解析に用いた。その結果、本種の産卵開始時期は低緯度で遅く高緯度で早いこと、遡上開始時期は低緯度で早く高緯度で遅いことが明らかとなった(ANCOVA, p < 0.05)。また、産卵開始時期と遡上開始時期をそれぞれ線形回帰した回帰線の傾きは経年的に変動していた。産卵・遡上開始時期が経年的に変動した理由として、近年の地球温暖化を伴う気候変動の影響が挙げられる。今後はより古い年代におけるデータを参照することで、長期的な変動傾向や気候変動との関連を明らかにしていく。


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