| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-F-195  (Poster presentation)

小型河川魚の移動パターン解明のための複数組織同位体比の利用

*札本果(京都大学), 中野孝教(総合地球環境学研究所), 申基澈(総合地球環境学研究所), 森誠一(岐阜経済大学), 久米学(京都大学), 西田翔太郎(岐阜経済大学), 木庭啓介(京都大学), 陀安一郎(総合地球環境学研究所)

 魚類の個体毎の生活史における移動パターンの解明は、その魚種の生活史戦略や各生活史段階における生息適地などを知るために重要である。魚類の河川内移動を明らかにするために、耳石のストロンチウム同位体比の時系列に沿った分析方法が用いられている。しかし、耳石サイズの小さな小型魚の場合、耳石での時系列解析は困難である。そこで、本研究では、岩手県大槌地域で捕獲された、既に耳石全量のストロンチウム同位体比から河川内移動をしたと考えられた個体を含むイトヨ(Gasterosteus aculeatus)集団を対象に、耳石と同様に過去の情報を保持すると考えられる脊椎骨のストロンチウム同位体比によって、移動履歴を明らかにできるのかを検討した。加えて、脊椎骨の結果に筋肉組織の炭素・窒素安定同位体比の情報を加えることで、筋肉の代謝期間の範囲内の直近に生息した地点についての考察も行った。
 その結果、形成時期に沿って脊椎骨のストロンチウム同位体比が大きく変動する個体が存在しことから、脊椎骨により移動履歴が明らかにできる可能性が示された。しかし、脊椎骨と耳石全量のストロンチウム同位体比の比較から、脊椎骨はある程度の代謝が起きていると考えられた。また、ストロンチウム同位体比が似通っている水域間でも、筋肉の炭素・窒素安定同位体比には差がある可能性が示された。これらのことから、捕獲地点の集団とは異なる窒素・炭素安定同位体比を示した個体は、直近に移動してきた可能性が高いと考えられる。また、この結果は、炭素・窒素安定同位体比を用いた河川生態系の食物網構造解析において、魚類の移動が結果に影響を与えていることを示唆している。


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