| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-G-219  (Poster presentation)

既往調査データから底生動物相の回復過程を追えるか?:渡良瀬川における過去50年間の金属濃度変化との関係

*多賀須誠樹(東洋大学大学院生命科学研究科), 征矢真広(東洋大学生命科学部), 岩崎雄一(東洋大学生命環境科学研究センター), 柏田祥策(東洋大学生命環境科学研究センター)

重金属などの化学物質に汚染された河川において,汚染の減少にともなう生物相の長期的な変化を調査することで,河川生態系の管理対策を行う上で重要な知見を得ることができる。しかし,そのような研究は世界的にもほとんど行われていない。本研究では,足尾銅山における鉱山活動によって重金属を含む鉱山廃水が流入し深刻な影響を受けた渡良瀬川を対象に,1960年から2010年の間に実施された既往調査データを用いて,底生動物相の変化・回復過程を明らかにし重金属濃度との関係を調査することを目的とした。

渡良瀬川では上記期間に複数の調査主体によって断続的な底生動物調査が行われているが,多くの場合で河川水中の重金属濃度は測定されていない。本研究では銅濃度を重金属汚染の指標とし,渡良瀬川河川事務所が実施した毎月の水質調査結果をもとに対象期間における年平均銅濃度を推定できる統計モデルを構築した。この推定結果と既往の底生動物調査結果を組み合わせることで,銅濃度の変化にともなう底生動物の個体数および種数や群集組成の変化を解析した。

1960年から近年になるにつれて渡良瀬川の銅濃度は大きく減少し,それに相関して底生動物の個体数や種数が増加していた。主要な科の個体数に着目すると,1964年当初はほとんどコカゲロウ科やユスリカ科のみしか出現していなかったが,シマトビケラ科は1973年からヒラタカゲロウ科は1977年の調査から非汚染河川と同程度の個体数が出現していた。この結果は,既往研究で報告されている重金属汚染に対する各科の感受性と一致しており,渡良瀬川における重金属汚染の低減が底生動物相の変化の主要な要因であったことが示唆される。1979年以降の底生動物調査結果は取得できなかったが,2004年には渡良瀬川の調査地点における群集組成が非汚染河川と同様になり,重金属汚染に対する感受性が高いカゲロウ類の種数が対照河川と同程度になるほどの回復が観測された。


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