| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-G-244  (Poster presentation)

哺乳類の死骸に集まる美食家たち~腐敗臭に誘われて~

*橋詰茜, 中島啓裕(日本大学)

スカベンジング(死肉食)とは,捕食以外の要因で死亡した動物からエネルギーもしくは栄養を得る分解者以外の動物による採食行動のことである.近年の理論研究によって,スカベンジングは,食物網の構造や安定性に大きな影響を与えることが明らかにされてきた.しかし野外での実証的な研究は少なく,スカベンジングされる死体の割合やその安定性について明らかにした研究は限られる.動物の死体は,高温多湿な環境下では,微生物によって短期間のうちに腐敗・分解されてしまう.すなわち,食物網におけるスカベンジングの卓越性は,環境条件によって大きく変化する可能性がある.そこで本研究では,高温・湿潤な環境において,捕殺されたアライグマの冷凍保存個体を実験的に設置し,どの程度の割合がスカベンジングされるのかについて明らかにすることにした.調査は,2017年8月10日から9月24日にかけて,北海道二海郡八雲町の日本大学所有の演習林において行った.死体は,林道沿いに約1km間隔で20地点に置き,数メートル離した場所に自動撮影カメラを設置した.この結果,脊椎動物による死体の消費割合は比較的低いことが分かった.キタキツネとエゾタヌキによるスカベンジングが,それぞれ5地点(50%),4地点(57%)においてみられたのみであった.残りの死体は,ニクバエの1種の幼虫によって短期間の間に消費された.興味深いことに,昆虫食の鳥類(コルリ,アカハラなど)やげっ歯類が死体を頻繁に訪問し,ウジを捕食していることが観察された.これらの結果は,夏季においても微生物による分解割合は必ずしも高くなるわけではなく,ウジによる採食を通じて死体内のエネルギーや栄養塩の大半は高次栄養段階に短期間で回収されることを示唆している.すなわち,死体をどの生物種が利用するかは状況依存的であるが,死肉と死肉食ギルドの関係性は比較的安定している可能性が示された.


日本生態学会