| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-H-268  (Poster presentation)

絶滅危惧樹木ヒトツバタゴの開花・結実特性

*下平美成, 加藤大輔, 戸丸信弘, 中川弥智子(名古屋大学大学院)

ヒトツバタゴ(Chionanthus retusus)は雄性両全性異株であり、日本では長崎県対馬および、岐阜県東濃地方とその周辺に隔離分布している。東海丘陵要素植物の1つであるが、東濃地方での自生木は141個体のみ確認されており、絶滅危惧Ⅱ類(VU)に指定されている。そこで本研究ではヒトツバタゴの保全方法を検討する上での基礎情報として、ヒトツバタゴの繁殖特性を明らかにすることを目的とした。

調査は、植栽地である名古屋大学東山キャンパスと東山植物園(愛知県名古屋市)、および自生地である岐阜県瑞浪市大湫町と恵那市大井町にて行った。まず、自然状態での結果率や花粉制限の有無、および花粉親の性(雄性と両性)による結果率の差異を調べるため、2015年に植栽地で、2016年に植栽地と自生地で、受粉処理を実施した。2015年の処理は雄株からの他家受粉、両性株からの他家受粉および自然受粉(計10個体)とし、2016年の処理は自家受粉、雄株と両性株からの混合花粉による他家受粉および自然受粉(計9個体)とした。2016年の成熟果実は採取し、遺伝解析を行うことで種子の花粉親を推定し、自殖率や花粉散布距離にくわえて、混合花粉で受粉した場合の花粉親の性や、自然受粉下での雄株と両性株の父性繁殖貢献度を調べた。また自生地にて日中に計4日間、訪花昆虫の捕獲調査を行った。

その結果、両年とも受粉処理による結果率の有意差は見られず、2015年は平均1.7%、2016年は平均3.1%と全体を通して結果率は非常に低かった。多くのヒトツバタゴで果実生産に失敗していることが考えられるが、結果率には非常に大きな個体差があったため、その原因解明のためにはさらなる調査が必要である。また、捕獲した訪花昆虫の結果から、特に訪花数が多かったことや体表花粉の存在から、ヒトツバタゴの主な送粉者はコアオハナムグリであることが示唆された。合わせて、小型のハエ類やハチ類も送粉者になっていると考えられる。


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