| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-H-269  (Poster presentation)

サラシナショウマ種内3送粉型における標高傾度に沿った繁殖様式の分化

*田路翼, 市野隆雄(信州大・理)

 サラシナショウマCimicifuga simplexには異なる生態的特徴を持ち、遺伝的にも分化した3つの送粉型が存在する(Pellmyr 1986; Kuzume and Itino 2013)。3型は標高別におおまかにすみ分けており、高標高から順にタイプⅠ、Ⅱ、Ⅲが分布している。タイプⅠ・Ⅱ・Ⅲは、生育環境がそれぞれ林縁(明/暗)・林縁(明)・林床(暗)の環境、送粉者がそれぞれマルハナバチ類・チョウ類・アブ類を中心としており、生育環境や送粉者に大きな違いがある。このことから、各タイプの繁殖にかかわる形質が分化していることが予測される。
 そこで各タイプを比較した結果、まず、花の性表現が大きく分化していることがわかった。基本的にタイプⅠは雌性両全性異株(両性個体+雌個体)、タイプⅡは両性株と雄性両全性同株(両性個体+雄性両性個体)、そしてタイプⅢは両全性(両性個体のみ)であった。
また、種子DNAのマイクロサテライト解析によって、各タイプにおける他殖率の推定を行った。その結果、タイプⅠ・Ⅱは主に他殖を行っていること、タイプⅢは主に自殖を行っていることが明らかになった。次に、送粉者の訪花頻度は、タイプⅢが他の2つのタイプに比べて低かった。また、花のディスプレイサイズは、タイプⅢが小さかった。これらは自殖植物に一般的に見られる特徴である。
さらに、どのタイプでも両性花において雄性先熟が観察された。タイプⅠ・Ⅱでは雄期と雌期がはっきりと区別できる強い雄性先熟であった。一方で、タイプⅢでは雌期でも花粉の放出が見られたため弱い雄性先熟であると予想される。
以上の結果から、サラシナショウマの3送粉型の間では花の性表現と自殖・他殖といった繁殖様式が分化していることが明らかになった。考察では性表現と自殖・他殖が分化した理由を、送粉者相・訪花頻度のタイプ間の違い、および季節がすすむにつれての雄花と雌花の性比変動といった観点から考察する。


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