| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-I-273 (Poster presentation)
福島原発事故によって放出された137Csは、森林土壌層に集積して森林内を汚染し続けている。森林利用のために膨大な汚染域を除染する事が急務である。真菌による137Csの集積に着目した木質チップ実験の結果では、1年間で7 %の137Csが木質チップに移行しており、生物による除染は可能であることが示された。分解途中の落葉の137Csと真菌バイオマスの関係から137Csの移行に真菌が働く事が示唆された。しかし、137Csの土壌表層への移行は真菌による移行以外に林冠からの沈着、溶脱が考えられる。そこで本実験は、真菌による土壌表層の137Cs濃度の増加を実証することを目的とした。野外で採取した土壌(5.5kBq/kg)と広葉樹のおが粉(2.4Bq/kg)をそれぞれ詰めたU8容器の間にメッシュを挟んで接触させ、4カ月間培養した。滅菌、非滅菌の土壌処理と菌種の2要因の実験を行った。使用した菌類は、セシウムの濃縮率が高いアカヒダワカフサタケと栽培しやすいシイタケを用いた。培養から2、4カ月目にサンプルを回収して、おが粉と土壌の137Cs濃度、窒素濃度を測定した。移行係数を用いて土壌からおが粉に移行した137Csを比較した。また、おが粉の真菌バイオマスの指標としてリン脂質脂肪酸(PLFA)を抽出し、PLFAを真菌炭素量に変換するために、11.8 nmol PLFA = 1 mg Cの計算式を用いた。無接種の非滅菌土壌処理ではおが粉の137Cs濃度が増加したが、滅菌処理では増加しなかった。非滅菌土壌に生息していた微生物がおが粉に生育し、土壌からおが粉に137Csを移行した事が考えられた。菌類を接種したおが粉の137Cs濃度は、両土壌処理とも増加傾向を示した。おが粉の分解が進むと同時に137Csの移行も促進される事が示唆された。菌体への移行係数は、おが粉全体への移行係数よりも500倍高かった。分解速度と菌種の違いが真菌による137Csの移行に影響を与えており、森林土壌表層中の真菌の働きは放射性セシウムの重要な移行経路であった。