| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-I-275  (Poster presentation)

窒素循環から見た里山の評価手法の開発

*井田勇也(新潟大学)

 景観複合体としての里山の景観構成要素間の関係性と人為活動の意味を定量的に示すため、里山流域内での窒素循環および域外との窒素収支を計測・測定した。

 調査は佐渡島の南部に位置する岩首集落で行い、居住区の含まれない標高約250m~約400mの棚田を中心とした流域を本研究対象地とした。窒素収支を算出するにあたり、二つの方法で現場調査を行った。一つは雨水と河川水の採水・分析、河川流量の観測といったサンプリングと分析、もう一つは肥料の投入や収穫量、残渣の扱いなどを把握するための聞き取り調査である。これらの調査結果と、窒素含有率などの文献の引用値から窒素収支を算出した。

 収支結果から、インプットは大気沈着が23.5%、河川流入が29.6%、肥料投入が46.9%で、アウトプットは米の持ち出しが38.2%、作物残渣の持ち出しが4.3%、河川流出が42.7%、生化学的なプロセスによる窒素損失が14.8%であった。内部循環に関しては稲わらの漉き込みが最も多く、肥料の投入による窒素投入量の約6割であった。

 本研究では窒素循環に着目し、里山での生活や機能を定量的に評価する手法を確立できた。一方、内部循環の稲わらの漉き込みによる窒素量は多かったが、可給態への変換速度や稲への再吸収過程には未解明の部分が残った。また、日本の場合、伝統的な里山においても、年貢米としての外部への持ち出しや、鰊粕が肥料として外部から持ち込まれていたという過去があるため、物質循環の外形は数百年間不変であるという見方も可能だろう。


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