| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-I-279  (Poster presentation)

樹液流束密度の日・季節変化と環境応答性の解明 ―アカマツ、カラマツ、コナラの比較―

*宮嶋恵里花(早稲田大・院・先進理工), 墨野倉伸彦(早稲田大・院・先進理工), 小泉博(早稲田大・教育)

 樹木の蒸散は環境要因によって変化し、森林生態系の水収支に大きな影響を与えることから、その動態を解明することは重要である。この蒸散の動態は、落葉樹か常緑樹かで大きく異なると考えられるが、同じ環境下で両者を比較した例は少ない。そこで本研究では、常緑針葉樹アカマツ (Pinus densiflora) と落葉針葉樹カラマツ (Larix kaempferi)、落葉広葉樹コナラ (Quercus serrata) について、蒸散量の指標となる樹液流束密度 (cm3 cm-2 h-1 ) の日・季節変化と、環境要因に対する応答を分析・比較することを目的とした。測定は長野県軽井沢町に生育するアカマツ、カラマツ、コナラを対象に行った。樹液流束速密度はグラニエ法とHFD法を用い、2016年3月から11月まで測定した。
 樹液流束密度の日変化は、大気飽差8 hPa以下で正の相関が見られ、大気飽差が8 hPaより高くなると頭打ちになっていた。これは植物体の乾燥を防ぐため、気孔を閉じたことによると考えられる。一方で、変化のタイミングは大気飽差ではなく全天日射量に依存していることが明らかになった。これは、日光によって大気が暖まって大気飽差が上昇するよりも早く、光合成機能が応答するためと考えられる。
 樹液流束密度は季節変化をしており、日積算量は葉の量と連動する傾向にあった(R = 0.25~0.60)。これは、葉が多くなると木全体の光合成が盛んになり、その結果、より多くの水が利用されたためと考えられる。
 林分レベルにスケールアップした樹液流量を比較すると、どの測定期間においてもアカマツ林が最も多く、次いでコナラ林、カラマツ林となった。樹液流量は蒸散量の指標であり、樹液流量が少ないということは大気中への水の放出量が少ないということである。これにより、保水力の観点から水源涵養機能の高い森林を目指した植林をするためには、今回比較した3種ではカラマツを用いるべきであると示唆された。


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