| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-I-280 (Poster presentation)
生物資源から作られる土壌改良剤(バイオチャー)の森林への散布は、難分解性炭素を土壌に貯留させることによる炭素隔離効果や、土壌改良剤として植物の炭素固定能を促進させる効果が見込まれるため、地球温暖化対策として有力視されている。バイオチャー散布が森林生態系の生態系純生産量(NEP)に及ぼす影響を評価するには、一般的に積み上げ法が用いられているが、細根の動態を十分に組み込んでいるとはいえず、過小評価となっている可能性がある。また、バイオチャーの散布による森林細根動態への影響を調査した研究は未だない。したがって、本研究ではバイオチャーを散布した森林において細根の動態を測定し、散布による影響を明らかにすることを目的とした。
調査は2016年2月から11月まで埼玉県本庄市の暖温帯コナラ林で行った(現在も継続中)。20 m × 20 mの方形区をバイオチャー散布量(0、5、10 t/ha)ごとに4区画ずつ設置し、各散布量につき代表的な区画に70 cm × 140 cmのトレンチ区を1区画ずつ設けた。各方形区に24個のイングロースコア(直径3 cm × 30 cm)を埋設し、3ヶ月おきに各3個ずつ回収して、コアに侵入した細根(< 2 mm)量を深度10 cm毎に定量した。同時にトレンチ区内に埋設したルートバッグから細根分解率を算出した。これらの結果から細根の生産・枯死・分解速度を推定した。
バイオチャーの散布により細根動態は季節変化を示し、春季に生産・枯死速度を増大させ、夏季には抑制することが分かった。さらに、深度別に対象区と散布区の差を比較すると、表層から10 cmまでの層では大きな違いが見られたが、10 cmより深い層では明瞭な差は認められなかった。以上のことからバイオチャー散布が森林生態系の細根動態に与える影響は、季節によって異なり、土壌表層で強く現れることが明らかになった。