| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-I-284 (Poster presentation)
地球温暖化の対策として、植物遺体などの有機物を熱分解したバイオチャーが注目されている。森林に散布した場合、難分解という特性により長期に炭素を土壌へ隔離する効果、及び土壌改良による樹木の成長促進効果が期待される。しかし、野外環境においてバイオチャーが森林生態系の炭素動態に及ぼす影響を報告した例はない。そこで本研究では、森林にバイオチャーを散布したときの炭素動態の変化を解明し、最適散布量を提言することで、森林へのバイオチャー散布の有効性を検証することを目的とした。
埼玉県本庄市の暖温帯コナラ林において、10 m×10 mの方形区を5つ設置し、バイオチャーの散布量により0 t区,2.5 t区,5 t区,20 t区,40 t区(haあたり)とした。2014年から2016年にかけて、純一次生産(NPP)の構成要素である樹木成長量(ΔB)と枯死・脱落量(LF)を測定した。また、土壌呼吸速度(SR)を測定し、先行研究の寄与率から従属栄養生物呼吸(HR)を算出した。NPPとHRの差を生態系純生産量(NEP)とした。
NPP(tC ha-1 yr-1)は散布区(2015年:7.1~10.6,2016年:7.8~9.8)で0 t区(2015年:5.8,2016年:6.4)よりも大きくなった。これは、散布区でのΔB及びLFの増大に起因すると考えられる。しかし40 t区ではΔBが年々減少した。これは過剰な炭素の供給により養分溶脱が起こり樹木成長が阻害されたためと考えられる。一方、SRは散布直後に高い値を示し、散布後6ヶ月から1年経過後は低い値を示し、2年経過後は区画間で差がなくなった。また、2016年の高いSRは2015年の高いLFに起因すると考えられる。これらの結果から、NEP(tC ha-1 yr-1)は散布区(2015年:1.5~4.9,2016年:1.0~3.0)で0 t区(両年とも-0.1)よりも大きく、5 t区で安定して高い値を示した。以上より、バイオチャーの散布は、森林生態系の炭素固定能を上昇させる効果があり、5 t ha-1が最適散布量、40 t ha-1は過剰量と示唆された。