| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-I-287  (Poster presentation)

7年間の温暖化は冷温帯シバ草原の炭素動態に何をもたらしたか? -植物および土壌微生物の応答特性の解明-

*墨野倉伸彦(早稲田大学・院・先進理工), 鈴木真祐子(早稲田大学・院・先進理工), 増田信悟(早稲田大学・院・先進理工), 吉竹晋平(岐阜大学・流圏セ), 小泉博(早稲田大学・教育)

 陸域生態系の炭素循環において主要な吸収・貯留源として機能する草原生態系は、気候変動の影響を受けやすいことが指摘されている。その温暖化応答は生態系タイプ・温暖化後の経過時間・炭素フラックスの各構成要素によってそれぞれ複雑な特性を示すことが予想されており、本研究では、冷温帯シバ草原を対象に7年間の温暖化操作実験を行い、各炭素フラックスの長期的温暖化応答を解明することを目的とした。
 放牧によって維持される岐阜県の冷温帯シバ草原に80cm×100cmの区画を設置し、地上1.2mに設置した赤外線ヒーターで地下2 cmの地温を平均的に2℃昇温した。炭素収支である生態系純生産量(NEP)とそれを構成する生態系総生産量(GEP)、生態系呼吸量(RE)、およびそれらの内訳である土壌呼吸量(RS)、植物体地上部呼吸量(RAGB)、根呼吸(RR)、土壌微生物呼吸(RH)を測定・算出した。さらに植物体現存量(AGB)の測定と、気温・地温・土壌水分量・日射量・土壌栄養塩などの環境要因の測定も行った。
2009年から2011年までの温暖化初期においてNEPは変化しなかったが、GEPとREはいずれも温暖化によって増加しており、放出と吸収の増分が打ち消し合った結果、収支に差が生じなかったと考えられる。また、この期間にはAGBが増加しており、炭素フラックスの変化は温暖化による植物の増加に起因することが示唆された。2012年から2015年までの温暖化後期においてもNEPの変化はなく、さらにGEPとREの増加も見られなくなり、冷温帯シバ草原に特有の応答特性として、全体的な炭素フラックスに対する温暖化の影響が低下することが明らかになった。また、2015年時点においてもREの構成要素であるRAGBとRRは増加、RHは減少しており、冷温帯シバ草原では長期の温暖化により全体的な影響が低下した後も、炭素フラックスの構成要素には温暖化の影響を受け続けるものもあり、植物と土壌微生物では異なる応答を示すことが示唆された。


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