| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-J-299 (Poster presentation)
リンは樹木にとって最も重要な元素であり、しばしば樹木の生産性を制限する。リン欠乏の森林では、樹木は不足するリンを獲得するために、有機態リンの分解酵素“ホスファターゼ”を土壌に分泌し、土壌有機態リンの分解能を高めて無機態リンを獲得する。土壌有機態リンは多様な化学形態をとり(主にモノエステル態、ピロリン酸、ジエステル態、フィチン酸)、これら有機態リンの形態に応じた多様なホスファターゼの働きで分解が進行する{それぞれホスホモノエステラーゼ(PME)、ピロホスファターゼ(PyP)、ホスホジエステラーゼ(PDE)、フィターゼ(PhT)}。土壌有機態リンはその化学形態によって分解特性が異なる。モノエステル態とピロリン酸は易分解性、ジエステル態は中程度、フィチン酸は難分解性と考えられる。このため、異なる環境に生育する樹木群集の細根においては、その生活史戦略を反映して各酵素生産の配分が変化する可能性がある。
Turner (2008)の仮説によると、生態系のリン欠乏が進行すると、樹木群集は難分解性のフィチン酸分解能を有する樹木群集にシフトする。しかし先行研究はPME・PDE活性の評価に限られるため、リン欠乏の進行による樹木群集の変化により、どの有機態リン形態の分解能が樹木細根で高まるのかわかっていない。
そこでマレーシア、サバ州、キナバル山周辺に位置するリン欠乏度の異なる9つの森林において、バルクの樹木細根をサンプリングし、上記4種類の細根ホスファターゼ活性(細根重量あたりの分解能力)を測定した。さらに各ホスファターゼ活性と細根バイオマスの積から、森林面積あたりの細根ホスファターゼ活性を算出し、樹木群集の各細根ホスファターゼ投資量の指標とした。本発表では、地上部森林のリン利用効率(植物のリン欠乏度の指標)と各ホスファターゼ活性との相関から、樹木のリン獲得における適応的意義を考察する。