| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-J-300 (Poster presentation)
紀伊半島は日本有数の多雨地域であり,その要因は太平洋からの水蒸気が山地にぶつかり生じる地形性上昇流であるとされている。しかし,紀伊半島に広く分布する森林からの蒸発散起源の水蒸気がこの地域の降水に寄与している可能性がある。そこで本研究では,紀伊半島の降水に対する森林からの蒸発散の影響を明らかにするため,メソスケールの数値予報モデルであるWeather Research and Forecasting model Version 3.4.1 (WRF)を用いて,2015年8月における紀伊半島とその周辺領域の降水を再現する実験(再現実験)と領域内の陸・海面からの潜熱・顕熱をゼロにした場合の降水量を推定する実験(ゼロ実験)を行った。また,紀伊半島東部に位置する三重大学平倉演習林で観測した降水の酸素安定同位体比を用いて数値実験の結果を検証した。
数値実験の結果,領域からの潜熱・顕熱がなくなると降水量は減少することがわかった。紀伊半島は森林面積率が高く,森林からの蒸発散量は他の土地利用形態からの蒸発散量よりも多いことから,再現実験で推定された陸面からの潜熱の大半が森林からの蒸発散由来であると考えられる。また,ゼロ実験において顕熱の影響は小さかった。以上より,紀伊半島の8月の降水には森林からの蒸発散が寄与していることが示された。その寄与率は,陸面からの蒸発散量が多く,海からの蒸発量や水蒸気の流入量が少ないときに高くなることが示唆された。
森林からの蒸発散起源の水蒸気の安定同位体比は高いため,その寄与率が高いほど降水の安定同位体比は高くなると仮説を立てた.数値実験によって森林の寄与率が高いと推定された期間の降水の安定同位体比の観測値は高い値であり,上の仮説を支持した。