| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-J-301  (Poster presentation)

森林生態系からの窒素流出要因の検討―広域的渓流水質データを用いて―

*松浦真奈(京都大学), 矢野翠(京都大学), 木庭啓介(京都大学), 駒井幸雄(大阪工業大学), 徳地直子(京都大学)

これまで、森林は窒素制限状態にあり、大気などから供給された窒素も森林内の窒素循環に取り込まれ、森林流出水中の主要な窒素化合物であるNO₃⁻は渓流水中に多量に流出することはないと考えられてきた。しかし近年、渓流水中に多量のNO₃⁻が流出する窒素飽和が報告されており、大気からの窒素負荷の増大などが要因として考えられる(Aber et al.,1989)。窒素飽和状態にある森林では、森林生態系内に窒素が過剰に存在するため、大気由来のNO₃⁻ (以下、大気NO₃⁻)が森林内の窒素循環に取り込まれることなく渓流水中にそのまま流出する可能性が考えられる。本研究では、森林から流出するNO₃⁻における大気NO₃⁻の割合(fatm)を渓流水NO₃⁻の安定同位体情報(δ¹⁸O、Δ¹⁷O)から推定し、渓流水中NO₃⁻濃度、DOC濃度などとの関係をみることで、森林生態系からの窒素流出メカニズムを明らかにすることを目的とした。調査地は埼玉県秩父と、近畿、中国、四国、九州地方の渓流計855地点で、上流に人為発生源のない地点で平水時に採水を行った。秩父サイトは、先行研究において東京都市圏からの窒素負荷量のちがいにより3つの地域に分けられている(Tabayashi and Koba,2011)。秩父の結果から、窒素飽和の進行とともにNO₃⁻濃度とfatmはともに増大していくことが示唆された。しかし、近畿地方の窒素負荷量の大きくない地域において、集水域面積の小さい地点で秩父の窒素飽和地域よりも高いfatmがみられた。これは、小集水域では滞水時間が短くなり、大気NO₃⁻が渓流水中に流出しやすくなるためだと考えられ、fatmを用いて森林の窒素飽和を検討する際には集水域面積も考慮する必要があることが示唆された。また、どの地域においてもNO₃⁻濃度が高い地点でfatmが10%程度に収束したことから、窒素飽和状態にあると考えられる地点でも、大気NO₃⁻が渓流水中にそのまま流出することは少なく、大部分のNO₃⁻は森林生態系内での窒素循環を経て流出していると考えられた。


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