| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-J-304  (Poster presentation)

干潟生態系炭素循環に対する優占種ホソウミニナのインパクト

*川崎慧, 佐々木晶子, 中坪孝之(広島大・院・生物圏)

干潟生態系の中で、ベントスは炭素循環を支持する重要な構成要素である。ホソウミニナ(Batillaria cumingi)は、日本の干潟に普遍的に生息しているベントスで、多くの干潟生態系において優占種であるが、これが干潟生態系炭素循環へ与える影響は未知である。本研究はホソウミニナの個体数変動とその呼吸特性を調査することで年間の有機物無機化量を推定し、これをもとに干潟生態系炭素循環に対するインパクトを評価した。

調査地は広島県黒瀬川河口干潟に設定した。野外調査で春夏秋それぞれのフィールドにおける個体数と個体群の体サイズ構成を調査し、室内実験で温度、体サイズの変化に対するCO2放出速度の応答、大気中および海水中でのCO2放出速度の差をそれぞれ計測した。さらに、これらの結果にフィールドの環境条件を加え、有機物無機化量推定モデルを構築した。

ホソウミニナ個体数は、春期2233個体、夏期2733個体、秋期4608個体であり、季節ごとの個体数の増減が確認された。CO2放出速度は温度の上昇、体サイズの増加に伴い上昇する傾向を示し、海水中では、大気中でのそれに対して約二倍に増加した。これらの結果より構築されたモデルによる推定の結果、ホソウミニナによる春期から秋期の有機物無機化量は9.5 gCO2-C m-2と推定された。この値は同調査地での推定された底生微生物による年有機物無機化量(Sasaki et al. 2012)の一割に相当し、ホソウミニナが有機物分解により干潟生態系炭素循環を促進させることが示唆された。その一方で、ホソウミニナには明確な捕食者が存在しないとする報告もあり、その場合生態系上位への炭素の移動を妨げている可能性も考えられる。


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