| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-J-305 (Poster presentation)
気候変動に対する森林生態系の応答を評価する上で、葉群動態および土壌炭素を定量的に評価し、これらとの環境要因との関係を解明することは重要である。日本の多様な四季の気候条件下には、森林の極相段階でブナを主要構成樹種とする生態系が広く分布する。今後、日本で気候の温暖化が進むと、約100年後には日本のブナ林の総面積は減少し、特に西日本ではほとんどのブナ林生態系が消失してしまうことが予測されている(松井, 2009)。これまで、西日本のブナ林生態系を対象とした研究には、生態学および植物生理生態学的視点に着目したものが多くみられた。一方で、生態系炭素循環に着目した野外調査はほとんど行われていない。そこで、筆者は、微気象要素の連続観測、葉面積指数(LAI)と土壌炭素フラックスの季節変化の定量的評価とこれらの環境要因との関係解明を目的とした野外観測研究を実施した。ここで、解析対象期間は観測が実施された、2016年4月から12月である。
本野外観測の結果、複数の手法を用いて推定された LAIは、手法の違いによらずおよそ類似した季節変化傾向を示した。しかしながら、各手法の特性が反映された結果、LAI推定値にはわずかに差がみられ、特にこの差は落葉期において顕著であることがわかった。
同ブナ林生態系での土壌呼吸量の季節変化に関する調査の結果、全観測期間を通して土壌呼吸量が土壌温度に大きく依存することが分かった。一方で、月別で見ると土壌呼吸量と土壌温度の間に有意な相関が示されない時期があり、さらに、月別の相関の有無は調査対象空間の差異で異なる傾向を示した。この原因として水文環境の変化や、落葉時期におけるリターの蓄積や分解に関連した生物化学的影響が推察された。本研究の結果から、より正確な土壌呼吸量の推定を行う上で、落葉リターの量や質、およびこれらの動態に伴う生物化学的循環を考慮したモデル化が必要であることが示唆された。