| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-J-307 (Poster presentation)
溶存有機物(DOM)は土壌微生物にとってのエネルギー源かつ無機態窒素の基質であるが、植生によるDOMの特性の違いやその違いと窒素無機化・硝化の関係は十分に理解されていない。本研究では、北海道北部の成熟した針広混交林に生育するミズナラ、アカエゾマツ、林冠ギャップに密生するササの下において林外雨、林内雨、有機物層浸透水、土壌水(深度10 cm)を採取し、土壌に供給されるDOMの特徴と土壌から溶脱する溶存無機態窒素の関係を調べた。ササの有機物層浸透水のDOMはミズナラやアカエゾマツと比べてタンパク質様物質に富み、腐植化の程度(腐植化度)が低く、溶存有機態炭素/溶存有機態窒素比(DOC/DON比)も低い特徴を示した。また、有機物層が厚くなるほど有機物層浸透水のDOMの腐植化度と植物由来の腐植様物質の割合は高くなり、タンパク質様物質の割合が低くなる関係が認められた。アカエゾマツの有機物層はミズナラやササよりも有意に厚かった。また、ミズナラの林内雨のDOMはササと比べて難分解性が高い特徴を示し、それが両者の有機物層浸透水のDOMの違いの要因であることも示唆された。硝酸態窒素(NO3–)の三酸素同位体異常の値から求めた土壌水のNO3–に占める大気由来NO3–の割合は平均で約7%であり、土壌水のNO3–の変動は大気由来NO3–よりも土壌での硝化に強く影響を受けることを示していた。土壌水のNO3–フラックスと溶存無機態窒素(DIN)に占めるNO3–の割合(NO3–/DIN)はアカエゾマツに比べてササが有意に高い値を示した。そして、土壌水のNO3–/DINの変動は有機物層浸透水のDOMの質的特徴によって説明され、DOMがタンパク質様物質と微生物由来腐植物質に富み、腐植化度とDOC/DON比が低いと土壌水のNO3–/DINの値は高くなる関係が認められた。これらの結果から、土壌に供給されるDOMの質的特徴の植生による違いは土壌窒素動態、特に硝化プロセスの違いの形成要因であることが示唆された。