| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-J-309 (Poster presentation)
湿原の植物は窒素を節約しているか?
‐岡山県の湿原における植物体C/N比の基礎的研究‐
○林広祥・太田謙・波田善夫(岡山理科大学)
湿原は寒冷地だけでなく、温暖な地域の湧水地などにも存在する自然草原である。湿原は貧栄養な環境とされており、湿原に生育する植物は栄養素を節約して植物体を構成している可能性がある。しかし、湿原の植物にどれほどの栄養素が含まれているのか明らかになっていない。本研究では植物体を構成する炭素と窒素に注目し、CNコーダーを用いて湿原の植物の炭素と窒素を測定し、湿原の植物が貧栄養な環境に対してどのように適応しているのかを検証した。
調査地は岡山県内の湿原を対象とし、生育する植物や比較対象として湿原周辺に生育する植物を採取した。測定は予備研究の結果から、植物体の葉の部分を使用した。試料は2014年6月~2016年11月に採取した57種91サンプルである。
植物体(葉)のC/N比測定の結果は、生育区分ごとに分類し比較検討した。湿原固有種であるミズゴケ属やミカヅキグサ属植物の窒素量は、1%程度と少なかった。湿原周辺種である植物の窒素量は、ヤチカワズスゲなどのスゲ植物は約1.2%、キセルアザミなどのキク科植物は約2%と多く含まれていた。斎賀(2001)によると鯉ヶ窪湿原に生育するコイヌノナハナヒゲなどは相対照度が65%以下では生育できない陽生植物としている。湿原固有種は窒素の含有量が少ないことから、葉に含まれる光合成系のタンパク質が少なく、生長・生育するためには強い光が必要であると考えられる。この事から、湿原に生育する植物は貧栄養な環境から僅かな窒素を吸収し、小型の植物体を形成し、少量の光合成系タンパク質を用いて強光条件下で生育するために、窒素を節約する生態を持つと考えられる。また、湿原固有種はC/N比が高く、植物遺体が分解されにくいため、泥炭形成の要因の一つになると考えられる。