| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-J-312  (Poster presentation)

ヤマナメクジによる胞子散布の検証

*北林慶子, 都野展子(金沢大学)

菌類の胞子散布方法の一つに動物散布がある.媒介動物として昆虫や哺乳類等が報告されているが,無脊椎動物について報告はない.ナメクジはコケやシダ類の散布者となることが証明されていることから,日陰で多湿な樹上等に生息する菌食性のヤマナメクジは胞子散布者として機能している可能性がある.本研究はヤマナメクジによる動物散布の検証のために, ナメクジの排泄物の調査, ヤマナメクジの摂食行動の観察を行った.
ナメクジの排泄物の調査については,コナラ・アベマキ林内でヤマナメクジを採集し,消化管内容物の排泄期間の調査,排泄物中の胞子量の測定及び排泄された胞子の発芽実験を行った.その結果,ヤマナメクジは消化管内の内容物をすべて排泄するのに3〜8日を要した.排泄物中には複数種の胞子や分生子が破壊されずに含まれ, 幼生の排泄物1つの中に約1万9000個の胞子が含まれていた.発芽実験では,排泄された胞子はコントロールよりも高い発芽率を認めた.これらの結果から,ヤマナメクジは複数の菌類間を移動して胞子を摂食し,発芽力が促進された胞子を含む排泄物を数日かけて排泄し続けていることがわかった.
ヤマナメクジの摂食行動の観察については,ヤマナメクジの生息地から採集した33種のキノコを用いてヤマナメクジの嗜好性を調べた後,忌避行動を示したキノコを対象に、忌避物質の候補をGC-MSで探索した.その結果,31種のキノコに対し摂食が見られたが, 菌根菌のアケボノドクツルタケとクサハツに対して忌避反応を認めた.アケボノドクツルタケの揮発性物質を分析したところ,Sulfide系,Alcohol系の物質を複数検出した.
以上の結果から, 菌類の動物散布において, ヤマナメクジは木材腐朽菌や落葉分解菌に適した胞子散布者として機能していることが示唆された.菌類は匂い物質を利用して,嗅覚を頼りに餌を探索するナメクジの食性をコントールしている可能性がある.


日本生態学会