| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-K-325  (Poster presentation)

環境に関わらず重複するシクリッド魚類の同属種間のニッチ:胃内容の珪藻をマーカーにして

*川上将樹(龍谷大院・理工), 篠原耕平(遊林会), 大塚泰介(琵琶湖博), Bosco RUSUWA(University of Malawi), 丸山敦(龍谷大・理工)

 アフリカのマラウイ湖に生息するシクリッド魚類は800種を超える(日本の淡水魚種の2倍以上)。特に沿岸岩礁帯群集は種多様性が高く、多種の付着藻類食魚で構成されることから、餌資源の重なりによる激しい縄張り行動が報告されてきた。このような競争が卓越する群集は、どのように多種共存が成立しているのだろうか。本研究では、胃内容と環境中の珪藻組成からマイクロハビタットを推定する新たなニッチ解析を試みた。珪藻は消化されない殻を持ち、岩の角度によって組成が違うことが報告されている。この特徴を利用することで、シクリッド魚類の摂食角度を推定した。
 分析には、5地点の沿岸岩礁帯で潜水捕獲された藻類食シクリッド魚類2属4種を用いた。胃内容試料は実体顕微鏡下で機能分類群レベルの胃内容分析を行ったあと、光学顕微鏡下で珪藻の殻400枚を計数し、種組成を求めた。先の報告より得られた付着角度(上面・側面・下面)ごとの珪藻各種の相対出現頻度と胃内容の珪藻殻数を用いて、最尤法により各個体の岩の角度間における摂食比率を算出した。
 機能分類群レベルの胃内容分析では、大部分の個体が体積率の70%以上を付着藻類で占めていた。珪藻の種組成に基づくマイクロハビタット推定では、属間では異なる摂食角度を示したが、同属種間で摂食角度の重複が見られた。地点間で種ごとに摂食角度を比較すると、4種すべてで摂食角度が異なることが示された。
 本研究の結果より、シクリッド魚類は属間ではニッチ分化が起きているが、同属種間では環境に関わらずニッチの重複が見られることが示唆された。もしかすると、マラウイ湖シクリッド魚類群集は同属内においてはニッチ分化をしなくても多種共存が可能なのかもしれない。今後は、シクリッド魚類の種組成や安定同位体のデータと照らすことで、地点間で摂食角度が異なることや同属種間で重複する要因について議論したい。


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