| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-K-330  (Poster presentation)

分布パターン形成における移動の役割:渓流性昆虫の流下着地行動

*永田広大, 下村航一, 加賀谷隆(東京大学大学院農学生命科学研究科)

河川底生動物種の生息場所パッチ間における空間分布は、生息環境要求により説明されることが多く、パッチへの移入に対する水流による制約はほとんど着目されてこなかった。落葉枝によって形成されるリターパッチは、多くの底生動物種の重要な生息場所である。渓流の淵のリターパッチは、淵の中央付近に位置する淵央パッチと、淵の下流端付近に位置する淵縁パッチの2タイプにおおむね区別され、これらのタイプのいずれかに分布が偏る底生動物種は少なくない。淵に生息する種のパッチ移入には、水流に運ばれる流下移動をともなう場合が多く、2タイプのパッチへの到達しやすさは体サイズや形状により種間で異なる可能性がある。本研究は、淵のリターパッチに生息する昆虫種について、淵に流入後の流下距離を種間および生体・死体間で比較し、流下・着地行動の分布決定機能を明らかにすることを目的とする。
淵央パッチに分布が偏る5種(淵央分布種)、淵縁パッチに分布が偏る1種(淵縁分布種)、いずれにも分布の偏りを示さない3種(不偏分布種)の計9種を対象とした。淵を模した人工水路の上流から、各種の生体と死体を放流し流下距離を測定した。各種の生体の平均流下距離は、淵縁分布種が最も長く、次いで3種の不偏分布種(淵縁分布種の71~91%)、下位5種が淵央分布種(淵縁分布種の58~63%)であった。したがって、流下・着地行動は、これらの種の淵における分布決定機能を有することが示された。淵央分布種3種は、生体と死体で平均流下距離に差が認められず、流下・着地行動は体のサイズや形状に制約を受けているといえる。一方、淵縁分布種と不偏分布種における生体の平均流下距離は死体のそれより有意に長く、淵央分布種2種では有意に短かったことから、流下・着地行動を能動的に調節しているといえる。パッチ移入の種間差には、水流による制約とともに生息環境要求も関与している可能性がある。


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