| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-K-333  (Poster presentation)

マルハナバチの「わき見運転」チェック:自身の採餌中に周囲のハチから花の情報を得ているか

*崎田愛音(九州大学), 川口利奈(龍谷大学), 大橋一晴(筑波大学), 粕谷英一(九州大学)

訪花昆虫のマルハナバチは、同種他個体の採餌を観察するだけで報酬を含む花の色を学習できる能力をもつ。花資源は変動が激しいため、利用可能な花種の特徴を試行錯誤で学習するにはコストがかかり、かつ集めた情報も古くなりやすい。このような状況下では、他の採餌個体から容易に得られる情報の利用は有益と考えられる。これまでの研究では、ハチを空箱に閉じ込め窓越しに他個体を観察させるという実験条件でその学習能力が検証されてきた。この条件は、野外ではマルハナバチが飛行中に他個体の採餌に遭遇する場面に相当すると考えることができる。しかし実際には、マルハナバチは飛行中だけでなく自身の採餌中にも他個体の採餌場面に遭遇すると考えられる。そこで本研究では、クロマルハナバチが採餌中にも他個体の花選択に注意を払うのかを室内実験で調べた。ケージ内の白い人工花で実験個体に採餌させ、ケージ外側に同種他個体が黄または青の人工花で採餌している様子を再現し、実験個体が観察できるようにした。それを見せた後で、実験個体の黄と青の人工花に対する選好性を調べた。その結果、周囲の他個体の有無や花選択に関わらず、実験個体の採餌スピードやその後の選好性はほとんど変化しなかった。つまり、マルハナバチは他個体の採餌を観察して花の特徴を学習する能力は持つが、本研究ではそのような観察学習を採餌中に行うという証拠は得られなかった。マルハナバチが自身の採餌と並行して周囲を十分に観察できない、あるいはしない理由のひとつとして、採餌と観察のどちらにも主に視覚による注意が必要であり、周囲の観察によって採餌パフォーマンスの低下が起こる可能性が考えられる。マルハナバチは現在利用中の報酬に満足している限り、採餌パフォーマンスを犠牲にしてまで新たな花種に関する情報を獲得しようとはしないのかもしれない。


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