| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-K-337  (Poster presentation)

ニホンザル野生群におけるinfant handling:Biological Market理論の検証

*関澤麻伊沙, 沓掛展之(総合研究大学院大学)

 一部の霊長類では、アカンボウに親以外の個体が接触するinfant handling(以下IH)という行動が日常的にみられる。IHの前に、母親とハンドラーの間で、アカンボウを「商品」とするBiological Market (以下BM)と呼ばれる交渉が行われることがある。ハンドラーは、「商品」であるアカンボウの「値段」に応じた量の毛づくろいを「対価」としてアカンボウの母親に支払う。母親はそれを受けて、アカンボウへの接触を許容する。アカンボウの「値段」はアカンボウの数、母親とハンドラーの血縁関係・順位関係に依存して変動すると予測される。本研究では、ニホンザルのIHにおいて、BMが成立しているかどうかを検証した。アカンボウの「値段」はアカンボウの数が少ないとき、母親とハンドラーに血縁関係がないとき、母親がハンドラーよりも高順位のときに高くなり、ハンドラーから母親への毛づくろい量が増えると予測される。
 宮城県金華山に生息するニホンザルA群において、2014年と2015年に生まれたアカンボウ14頭とその母親を対象に、アカンボウが生後3ヵ月齢を超えるまで、1ペアにつき一回1~2時間の個体追跡観察を行った(総観察時間: 544時間)。母親の行動、ハンドラー、IHの内容を記録し、各IH前10分間でのハンドラーから母親への毛づくろいの有無とその時間を抽出した。IHの有無とIH時間、毛づくろい交渉があった場合の母親とハンドラーとの血縁関係・相対的順位差・観察時点で群れ内にいたアカンボウの数と毛づくろい量の関係を分析した。
 その結果、どちらの年においても、毛づくろいの有無とIH時間に有意な差は認められなかった。また、各項目と毛づくろい量にも有意な差は見られず、ニホンザルのIHにおいて、BMは成立していなかった。ハンドラーは母親の許容を必要としない状況を狙ってIHを行っているのかもしれない。


日本生態学会