| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-R-463 (Poster presentation)
タイ北部に生育する落葉性広葉樹のチーク(Tectona grandis Linn f.)では年輪成長量が年々変動しており,その原因が降水量や気温などの環境要因にあるとされている.しかし,樹木を伐採して得た円盤サンプルを用いた成長量解析の研究はあるが,生育中の樹木において肥大成長過程を観察した研究は少ない.なかでもチークのような広葉樹は針葉樹に比べて年輪木部の細胞構造がはるかに複雑で,年輪形成過程の把握は極めて難しいとされ,情報が不足している.そこで本研究ではチークの形成層活動の季節変化の把握を目的として,雨季開始直前の2016年5月から雨季終了後の同年12月まで1週間おきにタイ北部に生育するチーク2個体の樹幹部から形成層を含む木部コアサンプルを採取し,形成層の活動を顕微鏡観察した.
形成層活動の指標となる形成層の細胞層数および分化中の木部細胞層数の観察によって決定した形成層活動の再開時期は,雨季の再開にともなう葉面積指数(LAI)の上昇開始とほぼ同時期であった.また,当年道管の最初の木化が形成層の活動再開後すぐに確認でき, LAIが最大値に達する前に早材の形成が終わっていた.以上のことから,降雨による土壌水分の上昇が形成層活動の再開を促すこと,チークの通水の大部分を担うとされる当年輪の早材の道管が優先的に早く形成されることが示唆された.形成層活動の休眠開始は,雨季の終了にともなうLAIの低下よりも早く起きていた.したがって,葉の光合成が終了する前に光合成産物が当年輪の肥大成長への利用から翌年の活動のための貯蔵への利用に切り替わると考えられた.