| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-R-471 (Poster presentation)
2011年に発生した東日本大震災による津波で、多くの海岸林が壊滅的な被害を受けた。海岸林再生にあたりクロマツ単体林ではなく、混交林造成が望まれている。常緑広葉樹のタブノキは、海沿いに多く自生し、塩耐性を備えているため海岸林植栽樹種として注目されている。一方、本植物は岩手県山田町が自生北限域であるが、北限域よりも北に位置する被災地沿岸部は多い。そのため、本植物の寒冷耐性機構の解明は、耐寒性指標の作出など、北限域での育成技術に大きく貢献できるため重要である。一般に温帯性植物や樹木は、季節変化を読み取り、自身の凍結耐性を高め越冬を可能にする低温馴化能を持つ。本研究では、盛岡市においてタブノキの凍結耐性の季節変化や越冬性について生理学的・生態学的見地からの解明を目的とした。苗木を圃場で生育し、2015年12月より野外越冬群と温室越冬群に分け越冬させた。葉の形態的変化は、写真画像データにより評価した。2015年度に展開した葉の落葉・展葉時期と展開回数には差があった。展開回数は野外越冬では2回、温室越冬では1回だった。新葉に変色は見られなかったが、野外越冬は葉に積雪した事で、変色・葉身の硬化が発生した。凍結耐性は定期的に電解質漏出法により葉の凍結耐性を評価し、その結果から致死率50%となる温度(LT50)を算出した。両群とも10月中旬から11月にかけて明確な向上が見られた。また、野外越冬は氷点下温度に曝される期間が増え、最低気温が-5℃を下回り始める頃に再び凍結耐性が上昇した。すなわち、本植物の耐凍性は0~10℃の低温に曝される事で上昇するだけでなく、氷点下温度に曝されると更に上昇する事が明らかとなった。以上から自生北限域よりも寒い盛岡市でも、タブノキは越冬出来るが、翌年に通常とは異なる生理的挙動を示す事が明らかとなった。今後葉だけではなく枝や冬芽の凍結耐性の測定や、落葉時の個体の状態など更なる検討が必要である。