| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-B-055  (Poster presentation)

登山SNSヤマレコのデータを活用した文化的生態系サービスの広域評価

*饗庭正寛(東北大学), 小黒芳生(森林総研), 中静透(東北大学)

文化的生態系サービスの地図化や価値評価の試みが盛んに行われる一方、生物群集の種組成や多様性といった生態学的特性と文化的生態系サービスの関係に関する研究例は少ない。生態系から文化的サービスが供給される過程において、これらの生態学的特性はどのような役割を果たしているのだろうか?本発表では登山愛好者向けSNS・ヤマレコ上に蓄積された山行記録を活用して植物群集の特性が登山というレクリエーションサービスに与える影響を検証した。
ヤマレコから、全国3万峰、838万レコードの山行記録を取得した。解析は、地域二次メッシュおよび山ごと(主要な約1200峰のみ)の2つの空間解像度で行った。周辺人口や交通インフラなどの社会的要因、気候や地形等の環境要因、森林タイプ(森林率、森林中の自然林率、自然林中の原生林率)、さらに山レベルの解析では、登山者に人気の高い植物の有無を説明変数、月ごとの合計記録数を応答変数としてランダムフォレストによりモデル化した。
二次メッシュレベルの解析では、春から秋にかけて、原生林率が記録数に正の影響を与えていたが、その傾向は冬季にはほとんど消失した。森林率は年間を通して正の影響を与えており、自然林率の影響は年間を通してU字型だった。山レベルの解析では様々な植物が登山者数に影響していることが確認できた。カタクリ、イワウチワ等の春咲き草本、ヤシオツツジ類、シャクナゲ類、高山植物群落はいずれも登山記録数に正の影響を与えており、またその影響は開花時期のみに検出された。
これら植物群集の特性と山行記録数の間の、季節依存的な関係は、両者の間の因果関係を強く示唆しており、これまで生物の直接的な影響は限定的と考えられてきたレクリエーションサービスにおいても、植物群集の特性が重要な役割を担っていることを示すものである。


日本生態学会