| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-B-059  (Poster presentation)

マングローブの絶滅危惧植物ヒルギモドキの林分構造と潜在生育域推定

*指村奈穂子(山梨県森林研), 古本良(森林総研・林育セ), 竹村紫苑(地球研), 鎌田磨人(徳島大・院・理工)

ヒルギモドキは、日本では沖縄県のマングローブ群落に希に生育するシクンシ科の低木で、胎生種子を作らない、目立った気根を持たない、果実は水に沈む、種子は休眠するなど、他のマングローブ植物とは異なる特性を持つ。沖縄県での79ヶ所のマングローブ生育地のうち、10ヶ所でしか群落を形成していない。1)現地調査:西表島7ヶ所と石垣島1ヶ所のヒルギモドキ生育地で、汀線と直交する方向にベルトを設置し、レベル測量と個体群構造と植生を調査した。2)生育地推定:国土数値情報を用いて、沖縄県全域を対象に集水域と内湾の特徴を表す地形要因を整理・集計した。そして、ヒルギモドキの分布地を地形要因から推定するための空間モデルをMaxEntにより構築した。3)潜在的生育地モデルにより求められた地形要因と現地調査の結果から、ヒルギモドキが希少であることの要因を考察した。
 生育地内において、比高が低く水路や海水の流入がある場所にはオヒルギやヤエヤマヒルギが、比高の高いところには陸域の種が生育していた。ヒルギモドキは、それらの間の砂州上に生育していた。ヒルギモドキの根際直径階分布はひと山型を示し、群落は倒れて埋まった幹やそこから立ち上がった枝で構成され、芽生えや若木はほとんど見られなかった。この結果は、ヒルギモドキは台風や津波などの大規模撹乱後の一時に侵入してきたこと、そしてその後は種子による更新を行わずに栄養繁殖で個体群を維持してきていることを示唆する。空間モデルでは、ヒルギモドキの生育地は、集水域の流域面積が大きく、湾面積が大きい(湾口が広い)という地形条件が重要であることが示された。海域への土砂流入量が大きく砂州や前浜が形成されやすい流域で、かつ、海域からの波浪の影響を受けやすい場所であることが示唆された。ヒルギモドキの生活史特性はこうした地形的特徴に適合していると考えられるが、このような条件は国内では多くないため、その生育地は限られていると考えられる。


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