| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-B-076  (Poster presentation)

エゾオオマルハナバチの遺伝構造:在来種を用いた商品作物の受粉の可能性

*竹内剛(京都産業大学総合生命科学部), 高橋萌(岐阜大学応用生物科学部), 西本愛(京都産業大学総合生命科学部), 清拓哉(国立科学博物館), 土田浩治(岐阜大学応用生物科学部), 野村哲郎(京都産業大学総合生命科学部), 高橋純一(京都産業大学総合生命科学部)

 日本のトマト生産における授粉用昆虫として、1991年よりヨーロッパ原産のセイヨウオオマルハナバチが利用されてきた。その後、野生化したセイヨウオオマルハナバチは北海道各地で優占種となり、在来のマルハナバチ類との交雑や巣の乗っ取りなどが懸念される状態になった。2006年にセイヨウオオマルハナバチが特定外来生物に指定されたため、地域在来種を授粉用昆虫として用いることが求められている。
 演者らは北海道に広く分布し、働き蜂数が多く、飼育も比較的容易なエゾオオマルハナバチを授粉用の候補種と考えている。現実に本種が北海道内でトマト授粉用に商品化されると、ハウスからの逃亡が予想される。そこで、北海道内の本種の遺伝構造を明らかにし、逃亡個体による遺伝構造の攪乱リスクを評価した。
 北海道の11地点でエゾオオマルハナバチを採集して、ミトコンドリアDNAのCO1領域679bpの配列決定を行ったところ、一つのハプロタイプが道内各地で優占し、そこから一塩基変異した様々なハプロタイプが混じる典型的な一斉放散型で、地域分化はほとんど確認されなかった。しかし、大陸産とはある程度の分化が確認された。
 さらに詳しく遺伝構造を明らかにするために、北海道の25地点から採集したエゾオオマルハナバチのマイクロサテライト6座を用いた分析を行った。STRUCTUREによる解析を行ったところ、北海道産の本種は3つの祖先集団に分けられた。各祖先集団に属する個体が北海道各地に分布しており、明確な地理的分化は認められなかった。
 以上の結果より、北海道産のエゾオオマルハナバチを北海道内で授粉用昆虫として用いる上では遺伝構造の攪乱リスクはほとんどないが、大陸産を用いることは避けた方がよいと考えられる。


日本生態学会