| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-B-083  (Poster presentation)

生活形の異なる林床草本が示した防鹿柵設置後3年の反応

*吉川正人(東京農工大学)

 シカの採食から植生を保護するため,しばしば防鹿柵の設置が行われるが,その効果はそれまでに植物が受けた採食圧の強さや,回復力の種間差によって異なる.本研究では,富士山南麓のブナ林に2013年3月に設置した防鹿柵内外において,葉群配置(単層/複層)とシカの嗜好性が異なるフタリシズカ,モミジガサ,アズマヤマアザミ,ホウチャクソウの4種を対象として,個体サイズと開花率を調査した.2014年から3年間,6月初旬と10月初旬に対象種の高さと開花の有無を記録し,防鹿柵の内外で比較した.
 不嗜好性植物であるフタリシズカは,3年を経ても柵内外での高さや開花率に違いは生じなかった.同じ単層葉群型でもシカが好んで食べるモミジガサは,柵内では10月の高さが増加し,すべての個体が花をつけるようになった一方,柵外では夏季の採食によって10月の高さが6月よりも小さい傾向が続き,花もほとんどつけないままだった.複層葉群型のアズマヤマアザミは,柵内では10月の高さは調査開始時から一定で,すべての個体が花をつけたが,柵外では3年目になると10月の高さが6月より低下して,開花もほとんどみられなくなった.複層葉群型のホウチャクソウは,柵内でも3年間では高さの回復が認められず,開花もみられなかった.
 以上から,柵設置までに受けていた採食圧の影響と,柵設置後の個体サイズや開花率の回復の種間差が明らかになった.モミジガサは,採食によって強く成長が抑制されていたが,その程度は柵の設置によって回復可能な範囲であった.アズマヤマアザミは,柵の設置時までは大きな影響を受けていなかったものの,柵外では採食圧がかかり続けたことで,モミジガサに遅れて高さの低下や開花率の低下が現れたといえる.3年間では高さの回復がみられなかったホウチャクソウは,柵設置までに大きな影響を受けており,地下の貯蔵物質の回復が遅れているものと考えられた.


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