| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-D-155  (Poster presentation)

アジア熱帯林における土壌生息性アリの群集構造の解明

*服部友津(兵庫県立大学)

アリは、地球の動物のバイオマスの15-20%を占めているといわれている。また土壌環境の改変をもたらすなど生態系のエンジニアとして重要な役割を持つ。熱帯でのアリの多様性は非常に高いことが分かっているが、調査の困難さゆえに、未発見種のアリが熱帯に多く生息していると考えられている。アジアの熱帯林には、熱帯多雨林、熱帯季節林があり、熱帯多雨林には1年中雨が降り、明瞭な乾季はないが、熱帯季節林は明瞭な乾季と雨季があることが特徴である。このような気候の違いは、これらの生態系に生息するアリ群集の種構成や分布に大きな違いをもたらすと予想される。
そこで本研究では、熱帯季節林・熱帯多雨林において1.アリの種数・種類・個体数、2.深さ方向・平面的分布、3.土壌環境・根系分布との関係、4.1~3を踏まえた生態系間の違い、を明らかにすることを目的とした。
調査地は、マレーシア、サラワク州の熱帯多雨林と、タイ北東部の熱帯季節林である。それぞれの調査地に10~20mのサンプリングラインを引き、ライン上に1-5m間隔で土壌を深さ30㎝まで、165地点で採取した。これらの土壌からはアリ・粗根・細根を採取し、アリは種の同定、個体数の計測、粗根と細根はバイオマスの定量を行った。土壌環境要因として各採取地点の土壌密度・含水率を計測した。
全採取地点におけるアリの出現割合は熱帯多雨林で56%、熱帯季節林で51%であった。種数は熱帯多雨林と熱帯季節林とでそれぞれ62種類と34種類、個体数は1254個体と996個体であった。出現割合・種数・個体数は、熱帯多雨林では有機物層は無機物層の約2倍であった。熱帯季節林では、有機物層と無機物層の間に大きな違いは無かった。土壌密度はアリの種数や個体数が増えるほど減少し、含水率・根系量はアリの種数や個体数が増えるほど増加する傾向が見られた。したがって、アリは土壌環境や根系分布を変化させる働きを持つことが示された。


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