| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-D-157  (Poster presentation)

土壌小型節足動物の局所群集の形成過程: 移動分散の制限とハビタットの異質性の寄与を探る

*齋藤星耕(琉球大学熱帯生物圏研究センター), 菱拓雄(九州大学演習林), 武田博清(同志社大学理工学部)

土壌には体長1mmに満たない微小で多様な小型節足動物が生息している。同一サイトの土壌試料の間でも、小型節足動物群集を比較すると、個体数の種組成は一定ではなく、大きなベータ多様性をもっていることが分かる。土壌は、数mmから数cmスケールで異質性の高い住み場所であり、小さな動物たちにとって、微環境や資源の可用性の、空間的な異質性が存在すると考えられる。一方で、小型節足動物は、体が小さく、また移動が容易でない土壌という住み場所の特性から、同一サイト内であっても到達できないために群集の異質性が生じているとも考えられる。
 この問題を考える上で、土壌動物にとっての住み場所の異質性を扱う必要が生じるが、いまだその本質は明らかではなく、計量することは簡単でない。そこで今回我々は、異質性を持たない住み場所として人工土壌を位置づけ、土壌動物群集のパターンを自然土壌と比較した。具体的には、京大上賀茂演習林においてプロットを設定し、サブプロット毎に人工土壌を入れたカゴを林床に埋設し、自然土壌と人工土壌を採取して、トビムシ類を捕集し、種レベルで同定・計数した。
 その結果、自然土壌でも人工土壌でも、ランダムから期待されるよりも高いbeta多様性を示したが、自然土壌のほうがbeta多様性が高かった。また、生活史形質(トレイト)を用いて、各サンプルにおける平均的な形質 (CWM) をもとめ、これを用いてbeta多様性を計算したところ、人工土壌ではランダム過程に近い値となったのに対し、自然土壌ではランダムよりも大きな値となった。人工土壌の結果から、種組成のbeta多様性が、形質では説明されなかったことから、サイト内における移動分散の制限が種組成に影響を及ぼしていることが示唆された。一方で、自然土壌では形質が群集のbeta多様性の一部を説明していた。これらのことから、トビムシ群集では、土壌の異質性と移動分散の制限の両方が局所群集の形成過程に関与していることが考えられた。


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