| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-D-159  (Poster presentation)

温帯域に分布するマングローブ生態系における底生生物群集:亜熱帯域との比較

*山本智子(鹿児島大学水産学部), 川瀬誉博(鹿児島大学水産学部), 白澤大樹(鹿児島大学大学院水産学研究科), 林真由美(長崎ペンギン水族館), 山中寿朗(東京海洋大学)

マングローブとは、熱帯・亜熱帯域の潮間帯に生息する耐塩性の種子植物の総称であり、その群落であるマングローブ林は、地球上で最も高い生産力を有する生態系のひとつである。この生態系は、巻貝や甲殻類などの底生生物によって粉砕され、バクテリアによって分解されたマングローブ樹木の落葉が起源となるデトライタス食物連鎖によって支えられているとされている。また、マングローブ生態系における樹木の役割はこれだけではなく、樹冠が形成する陰や幹や根などが提供する立体構造が、底生生物の生息環境に大きな影響を与えていると考えられる。温帯域に属する鹿児島市南部には江戸時代に移植されたとするマングローブ林があり、世代交代が続いているが、生物地理学的な情報から、熱帯・亜熱帯と違って大型で落葉の粉砕者となる底生生物が生息していないと考えられる。そこで本研究では、安定同位体比を利用してこのマングローブ林における食物連鎖の調査を行った。その結果、落葉は底生生物の食物として機能していないことが明らかになった。また、2016年1月の積雪によってマングローブが一斉に落葉したため、林内に生息する底生生物は、根や幹といった構造物を残しながら陰を作る樹冠だけが失われるという環境変化を経験している。現在、マングローブ植物が底生生物に対してはたしている機能を明らかにすることを目的に、落葉前後での生息環境と底生生物相を比較するとともに、樹冠の回復にともなう底質環境の変化を追跡している。


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