| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-E-167  (Poster presentation)

三方五湖のヤマトシジミ個体群の保全に向けて: 日本海の海面上昇の影響を評価する

*宮本康(福井県里山里海湖研究所)

 近年の海面上昇は海洋沿岸域の干潟や珊瑚礁の島々などを縮小させている。海面上昇の影響は海洋にとどまらず、汽水域の生物の分布にも影響を与えるだろう。なぜなら、汽水域では生物の分布制限要因である塩分の勾配が海水の侵入状況に応じて変化するからである。本研究では、福井県南部に位置する汽水域、三方五湖に生息する汽水性二枚貝のヤマトシジミに注目し、海面上昇に起因する高塩分化が本種の分布に与える影響を評価した。併せて、海面上昇の長期的な影響を評価するために、小氷期(約400年前)から今日に至る本種の分布の長期的な変化の推定を試みた。
 まず、高塩分化がヤマトシジミの分布に与える影響を評価するために野外実験を行った。近年の三方五湖では、カモ類による捕食も本種の減耗要因とされていることから、捕食の効果も評価した。海水侵入の程度が異なる5地点で塩分・水温を連続観測すると同時に、ヤマトシジミを封入した捕食防止区と対照区を設置し、夏季(高海面期)と冬季(カモ類の飛来期)に生残実験を実施した。その結果、夏季の高海面に起因する湖内の高塩分化と冬季の捕食が本種の生残率を低下させていることが示され、海に近い水域で海水侵入による本種個体群への負の影響が生じていることが示唆された。
 次に、海面上昇の長期的な影響を評価するため、本種の分布の長期変化を推定した。古絵図・古文書等を用いて約400年前の三方五湖の水表面・海水侵入の状況・シジミ漁場を推定した。その結果、江戸初期は各湖内で渚の占有率が現在よりはるかに多く、これらがシジミ漁場であったが、その後の新田開発で渚の多くが消失したことが判明した。本種の正確な分布域は不明だが、江戸期以降の人為改変が渚を消失させた結果、三方五湖内で低塩分域となる浅場が著しく減少、その結果、今日の海面上昇により低塩分を好む本種のハビタットが五湖内で狭まっている可能性が示唆された。


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